最初こそ同性のカップルにはびっくりしたけど、俺の順応性は高いらしい。
というより、やっぱ七瀬の暴走を止めたいだけだ。
「だからさ。何度も言ってるけど、人の恋愛より自分の好きな人見つけようぜ」
「余計なお世話だよ。何があろうとゲイのカップルは潰す。全力で邪魔して、引き裂いて、目を覚ましてやる」
ふぁー。
「いちいち物騒なことゆーなよ。大体、それこそ余計なお世話だと思うよ? ラブラブなところを邪魔されたら、どんな温厚な奴でもキレるって。だからもう無駄なことはやめろよ」
「次、数学。お前、席順的に問題当たるぞ」
「マジで!?」
カップルの話をしてたのに七瀬の言葉で全て掻き消されてしまった。
何故なら数学が一番苦手だ。マジでやばい。冗談抜きでやばい。

「ああああどうしよう、何も予習してない……!」
「教えてやろうか? 二度と俺のやることに口出ししないって約束したら、教えてやる」

彼の上から目線の物言いにムッとする。
「けっこうだよ! 俺はお前のしてることが正しいとは思えない。悪に屈するぐらいなら喜んで道化になるさ!」
「何だよその犠牲精神……」
七瀬は引いてるけど、彼に頭を下げたらカップル潰しを容認したことになってしまう。それは駄目だ。
でも数学を思うと……あ~、憂鬱だ!死ぬ!
「痛っ!?」
頭を抱えていたら、その頭を固い何かで叩かれた。見ると、それは一冊のノート。数学と書かれてある。

「この時間だけ貸してやる」
「えっ」

何で、って訊こうとした直後に先生が教室に入ってきた。皆一斉に着席し、俺も七瀬に突き飛ばされて否応なしに自分の席に戻ることになった。
でも駄目じゃね? これがないとあいつノート取れないじゃん。
途端に申し訳なく思って盗み見ると、彼は教科書の下でスマホゲームをしていた。
あれ。
あんまり真面目じゃないぞ。生徒会長、堂々とゲームしとる。

「じゃあこの問題を……須賀、解いてみて」
「あ、はいっ」

七瀬の予言通り先生に指されたから、慌ててノートを捲る。そこには綺麗な字で、とても分かりやすく回答が記入されていた。

細やか。
指でなぞって問題を探す。ノート通りに答えると、「正解」とだけ言われた。