「ねぇ、七瀬って昼はいつもどこ行ってんのかな?」

教室に戻ってからクラスメイトに訊いてみたけど、それを知る者はひとりもいなかった。だから彼を捜すのは諦めて、仲良くなった奴らと昼を食べた。
「なぁなぁ、須賀って彼女いんの?」
「え? いないよ」
即答したものの、皆そればっか訊いてくる。
女子に飢えてるせいもある。他人の恋話でもいいから、新鮮で刺激的な何かが欲しいんだろう。
期待の眼差しに応えられず悪かったけど、笑って誤魔化した。
「……あ」
午後の授業が始まる直前、七瀬が教室に入ってきた。不思議とホッとして彼の元へ駆け寄る。

「七瀬、パンありがとな! 美味かったよ」

彼は無表情を貫いてる。でも素直に頷いてくれた。
こういう、大人しい時の彼は至って普通だ。地味ではなく、かといって目立つわけでもない。
どこにでもいる少年。……なのに、油断して触ろうとするとやっぱり棘が刺さる。しかも動いてえぐってくる。
「早く席戻れよ。授業始まんぞ」
「あぁ、先生が来たら行くよ。それよりさ、七瀬は彼女いないの?」
「いない」
一瞬だけど、彼の声に苛立ちが含んだ。
すごいぞ、俺。出会って二日目でもう彼の感情の機微を読み取れてる。

「くだらない話する気ないんだわ。そういうのはあそこにいる奴らと適当にしてくれるか」
「お前、人の恋愛には首突っ込むのに自分は興味ねえの? 変わってんな」
「はっ! この学校で真剣にお付き合いしてる奴なんざ一人もいねえよ。どいつもこいつも自分に恋しちゃってるただの恋愛ごっこ。だからそんな奴を夢から醒まして、現実を見させる手伝いをしてやってんだよ!」

若干だけど、彼の怒りパラメータが上がった気がした。でもそれは八つ当たりに近い。
どうしてここまで屈折してるのか分からないけど、自分なりの意見を伝えた。

「お前はそう感じたのかもしんないけど、本気で付き合ってる奴らだって絶対いるよ。男同士だっていいじゃん! 両想いになれただけで奇跡だと思う。だって普通はお互い警戒して、ビビってさ……打ち明けることもできずに終わっちゃう気がするもん」