ポケットに手を突っ込み、少しだけ身を屈める。七瀬と同じ目線になり、はっきり告げた。
「俺もちょっと熱くなったのは認めるよ。でも一つだけ言わせてもらう。俺の台詞より、絶対お前の顔の方が誤解を煽ったね」
「はぁ!? 気持ち悪いこと言うな! 死ね!」
「死……っ!?」
とうとう禁断の二文字が……!

面と向かって死ねなんて言われたのいつぶりだろう。ハートは強い方だけど、それなりに驚いた。定期の更新を忘れて数日通学してしまったときと同じレベルの衝撃だ。
でも七瀬はため息をつくと、いつもの呆れ顔で片手を翳した。
「今日だけはどこでも付き合ってやるから、周りに何か訊かれたらちゃんと説明しとけよ」
「お、おう。そのつもり!」
敬礼すると、彼は瞼を伏せた。
「売店、行くんだろ? 早く来いよ」
「あぁ……、行く! 行きます!」
ホントは道のりなんて覚えてるけど、ホントに忘れてるふりをして彼の後をついていく。
変な感覚だ。騙してると言えば騙してる。バレたら、きっと彼は怒るだろう。いや、殺されるかな?

少しして着いた売店は混雑していて、人気のパンはほとんど売り切れてしまっていた。俺の第一希望の焼きそばパンもなくて、今日はおにぎりを買うことにした。あと唐揚げ。
「お前、案外食べないよな」
教室へ戻る途中、七瀬はそう言って俺にコロッケパンをくれた。華奢な彼こそもっと食べた方が良いと思ったけど、とりあえず先にお礼を言う。
「サンキュー! なぁ、昼一緒に食おうよ」
笑顔で誘ったけど、彼はもう何も答えずにどこかへ行ってしまった。七瀬は面倒見が良いのか悪いのか分からない。役柄、不本意なことを引き受けるのも慣れてるのかな。
俺が転校生だから比較的気にかけてくれてる。
じゃあ俺がクラスに馴染めば、関わることはなくなっていくのか。
それは……何かちょっと、つまんないな。先を歩く彼の後ろ姿を見て、謎の葛藤を覚える。

七瀬は教室でいつも独り。
周り曰く、彼は優しいが近寄り難い存在らしい。本人も独りの方が好きだと言ってるとか。
そして放課後になれば校内のカップル撲滅運動を起こすから、ゲイの生徒達には畏怖の念を抱かれている。

そりゃ独りにもなる。自己中で我儘で粗暴。普通、関わりたいとは思わない。俺もそう思うのに。

何でこんなに気になるんだ。

危なっかしくて目が離せない。
彼の周りはもちろん、彼自身が弱々しく見えているせい……かもしれない。