午前の授業が終わり、待ちに待った昼休み。波のように押し寄せる睡魔に俺は勝った。さあ、そしたら。
「七瀬、昼飯買いに行こうぜ!!」
俺の作戦その一。いや二はないし、作戦と言うほどのことでもない。
ただ七瀬から目を離すと変なことをしても気づけないから、考えを改め直すまで基本一緒にいることにした。
「ひとりで行けば? それとももう売店の場所忘れた?」
「忘れた」
答えた瞬間、目を合わせてなくても伝わる殺気。
やっぱやばいよ、この子……と思ってると、近くにいたクラスメイトにこそっと耳打ちされた。
「あのさ。七瀬って独りでいるの好きっぽいから、無理に関わんない方が良いよ」
……。
昨日の件があるから納得できる台詞だ。でも、
「サンキュー。じゃもう少し攻めてみる!」
高い壁だからこそ燃えてくるものがある。笑って言うと彼は驚きながら、「が、頑張って」と返して去って行った。
気持ちを切り替え、再び無愛想な少年に向き合う。
「じゃ、売店行こ? な?」
「ひとりで行け」
しかし手強い。頑固だ。仕方ないから、彼の手首を掴む。
「俺はお前と一緒に行きたいんだよ!」
思わず大きい声で叫んでしまった。
途端に静まり返る教室。皆一様に固まって、こちらを凝視してる。
「あ、ごめん大声出して!」
謝るポーズをとりながら、笑って誤魔化した。けど。
「七瀬?」
彼の顔は真っ赤だ。勢いよく立ち上がり、俺の袖を掴んで教室の外へ引っ張り出す。人のいない曲がり角まで行って、ようやく離してもらえた。
「おぉー、売店行く気になった?」
「ちげーよ、このバカ!」
七瀬の頬はまだ紅潮してる。周りには誰もいなかったため、智紀も人目を気にせず叫んだ。
「バカって何だよ。お前が素直にうんって言わないからだろ~」
「行くかどうかは俺の勝手だろ! なのにでかい声であんなこと言いやがって……勘違いされたらどーすんだ!」
───勘違い?
「誰が? 何を?」
「だから、俺らがキモい関係だと思われるだろうが」
七瀬は気まずそうに答える。理由はわかったけど、それには苦笑しか出てこなかった。
「はぁ……は、は。七瀬君、君ちょっと自意識過剰じゃね? 単純に皆、大きい声にビックリしただけだよ」
「だから! その大きい声が問題なんだろ!!」
「わかったってば。ごめん。でも……なるほどね、だからそんな顔真っ赤なんだ」