こちらを睥睨する七瀬の威圧は、凄まじい。心の奥深くまで見抜かれそうな、貫通性のある視線だった。
そういえば昼間はしっかりネクタイしてたのに今は外してるし、放課後は躊躇いなく本性を晒すみたいだ。全力で近付きたくない人種に一変する。
でも、こうして普通に話すことはできるのに……。
よく分からないけど、何か勿体ない。
「口先だけのつもりはないよ。俺は有言実行、くわえて無言実行だから。それより、お前は帰んないの?」
「職員室に寄る。ここまで案内してやったんだから、いい加減帰れるだろ? じゃ」
鍵をチラつかせて、彼は去って行った。一瞬ぽかんとしてしまったけど、すぐに思い返す。
俺、階段までの道が分かんなかったんだ。
案内してくれてたんだ。気付かなかった……。
独りとなり、下駄箱で靴に履き替え外へ出る。
転校初日だというのに、ショッキングな事件がたくさんあった。
今日行ってみて分かったことをまとめてみる。
一、この男子校にはゲイがいっぱいいる。
二、その危険地帯で俺はしばらく注目の的。
三、クラスメイトの七瀬はカップル潰しの悪魔。
今の段階でわかってる情報を整理する。
帰りもまだ慣れてない道のせいか、自宅までがとても遠く感じた。
ああぁ……疲れたっ!
家に帰ってから、智紀は制服のままベッドに寝転がった。
「智紀、おかえり。学校どうだった?」
「うわっビックリした!」
いきなりドアを開けて入ってきたのは母さんだった。頼むからノックしてくれ。高校生はずっと思春期だぞ。
「疲れたよ。何かやばい奴がいたもん」
やばい奴とは、無論あのキ〇ガイ生徒会長のことだ。
忘れようとしても気になってしょうがない。声を思い出そうとすると、ムカつく台詞しか思い出せないのに。
……顔はというと、あのとき見せた可愛らしい笑顔しか思い出せない。
「やばい、何だこれ……どうしよう、俺自分がキモい!」
「あらまぁ……初日から大変だったのね。カレー食べて元気出して」
能天気な母に苦笑しながら頷く。
明日からどうやってあの危険な少年と向き合おうか。
自分なりに、ちょっと真面目に考えてみることにした。