「は~あ……」
五月に入ったばかりの、あたたかな気候と爽やかな風。そして、少し憂鬱な通学路。
ここを歩くのはまだ二回目だ。高校三年生の須賀智紀は朝の空気を吸い、溜息をついた。
三年生でありながら通学が二回目というのは、事情がある。
こんな時期に転校かぁ……。
全ては親の転勤による、避けようのない引越しからだった。転勤族の父親についていくしかないし、転校自体はもう慣れっこだけど、今回のダメージはかなりデカい。
実はたった今着いたこの学校。県内では有数の進学校で設備とか行事とかの評判は良いけど、……男子校なのだ。
今までがずっと共学だったし、この高校生活最後の夏は絶対青春しようと思ってた。夏イコール青春ではないし、青春イコール恋愛じゃない事はわかってる。
それでも退けない何かが俺にはあったんだ。なのに、くそー……親父は悪くないけど、高校ライフ最後のフィナーレを迎えるのが男子校とは。
でも仕方ない。編入の試験も手続きもしっかりやったわけだし、今さら嫌だとは言えない。意を決して一歩踏み出す。
初めて来た時とは違う、登校時間の男子校の雰囲気ってどんなかなぁ。
「……!」
案の定、それはそれは普通だった。
というか静かだ。校庭は運動部の朝練もやってるようだけど……朝はどこもこんなもんか。
時間を確認しようとスマホに視線を落として歩き出そうとした。けれど、目の前にある僅かな段差に気付かずバランスを崩した。
やべっ……!
慌てて片方の足を前に出そうとする。けどそれより先に誰かに腕を掴まれ、後ろへ引き寄せられた。
「大丈夫?」
「あ、あぁ。ありがとう……!」
朝から心拍数が跳ね上がる。
やっべ~初日から恥かくとこだった!
支えてくれた少年に感謝しながら、ゆっくりと向き合う。そこでやっと気付いたけど、何か。
「良かった。スマホ見ながらは危ないよ。先生に見られてたら怒られると思うから……気をつけて」
すっ……ごいイケメンを見つけた。
身長はそれほど高くないけど、かなり整った顔をしてる。きっと共学ならモテてただろう。一瞬マジでモデルか何かだと思ったし。
まぁどれだけ綺麗でも、男だ。どうでもいい、というのが本音。
「どうも、気をつけるよ」
パッと見は下に見えたけど、タメ語使ってきたってことは同じ三年だろうか。とりあえず忠告通りスマホをポケットに仕舞い、職員室へ向かった。
……ちょっとだけ、不思議な感じの彼が気になったけど。