「役割?」
「そう、役割!」

 どんな役割があるのかを聞きたかったが、聞き方を間違えたな。
 レミニセンスさんはそんなことに気付かず、本の山から、私がさっき本の山に突っ込んだ使い古されたノートを引っ張り出していた。

「主に、この街では三つの役割に分かれて、協力して生活してる」

 地図が書かれたページを開きながら床に置き、しゃがんだレミニセンスさんは地図の中央を指さす。

「まず、『言の葉』から『物語』を作る役割。主にここの中央街で活動している」

 そして、レミニセンスさんがギリギリ聞き取れるくくらいの声で、
「まあ、これは『言の葉』が作れないとお話になんないけどね」
 と、言っていたような気がした。

「次に、農業」
そう言いながら指を北東に動かす。

「ここでは野菜とかを育ててるけど、人数とか場所が少ないからあんまり種類は多くないよ」

「最後に...」

 レミニセンスさんは小さな建物を指差し、
「水とか、生活に必要な物の管理だね」
と言い、今度は自身の方に指を向ける。

「今言ったこと以外にも、僕とかトランスパレントみたいなことをしてる人もいる」

 どうしようか。学校の委員会よりも数は少ないが、自分にあったものを選ぶ必要がありそうだ。
 力仕事は苦手とまでは行かないが、あまり好きでは無いし、『言の葉』も作ったことが無いし...

「じゃあまず、『言の葉』を作ってみたら?」
「作れるかどうかでだいぶ役割は変わるよ」

 さっき、リアクタンスさんとやった時のような感じでいいのだろうか。

 空気のおにぎりを作るように手を構える。

「なんだろうな。こう、息と一緒に自分の中にある物を出す感じ?」

 わかりやすいアドバイス。やっぱりレミニセンスさんはいい人だ。

  息をすうっと吸い込む。暖かいけど、鼻の奥にへばりつかない空気だった。空気がするっと体全体に広がっていく。
 息を吐いていくと、力が揺るんでいくのがわかった。
 手の方に目を動かす。


 そこには何もなかった。