貴方に捧ぐ言葉たち

「じゃあ、改めてよろしく」

 こんなに清々しい満足感を感じるのはいつの日以来だろう。

 図書室にある本棚の端の方に、お気に入りの本を見つけたときの、自分だけの箱庭に迷い込む感覚がした。

「はい、よろしくお願いします」

 そう言うとレミニセンスさんはフッと微笑み、

「これから街を見に行こう。案内人としてこの街を知っていたほうがいいでしょ?」

と言った。

「そうですね、行きましょうか」

 もう自分の口角が上がってきていることに気づかれないよう外へと向かった。
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外へ出ると、日はもう空の上の方へ登っていて、光も芯のあるものへと変わっていた。

「じゃ、まずは一番ここから近い畑に行こうか」

 そう言われ付いて行くと、どこを見ても壁の影のない畑に来た。少し離れたあたりには、家らしきものが見える。

 畑の土は、学校の花壇に使われていたものよりもふかふかしていそうだ。「これなら植物がよく育つ」と、小学校の授業でしか植物を育てたことのない私は、なんとなく思った。

「あっ、レミニセンスさーん」

 後ろの方から声がした。振り返ると、自分と近い歳の小麦色の肌をした背の高い少年がこっちに来ようとしていた。

「ハロウじゃないか。久しぶり」

 ハロウと呼ばれた少年は、手にしていた水入りのバケツをドスッと地面に置く。すると興味津々と言わんばかりにちらちらと横目で見てきた。

「レミニセンスさん、この人は?」

 一刻も早く新入りについて知りたい、という様子のハロウさんをレミニセンスさんは「まあまあ」と言って落ち着かせ、

「この子はアンビバレント。昨日、迷い込んだらしい」

 ハロウさんはこちらをじっと見てくる。相手の身長が高いせいか圧を感じた。

「へえー、よろしく。」

「よろしくお願いします。」

 するとハロウさんは何かを思い付いたように目線を少し上げてから、

「そういえば、アンビバレントっていくつ?」

 と聞いてきた。正直、初対面の人に対しその質問はどうかと思う。

「十五歳ですね」

 突然「マナーがなっていない」と言うのも違うと思い、自分の歳を答える。

 すると、ハロウさんは目を丸くし、

「俺より歳上じゃん…」

 そう呟いた。きっと背丈からして小学生か、高くて自分と同い年だと思ったのだろう。

 遠回しに背が低いと言われた気がして、小学生くらいのときに、「チビ」と言われたことを思い出してしまった。

「おーい、ハロウ、こっち来てくれ」

 二、三個先の畑にある人影から声が聞こえた。

「今行くよ」

 「それじゃ」と言ってハロウさんが人影へ走っていく。

 ハロウさんを見送ると、レミニセンスさんは、

「ちょっと元気が過ぎるけど、いい奴なんだ。仲良くしてくれ」

 と、先生のように言う。そして、一息ついた後、

「じゃあ、次は管理小屋に行こうか」

 と言って、足を進め始めた。