『気にしないで。気分は大丈夫?』

 僕はそこまで文字を打ち込んだあと、『気分は~』のくだりを消去した。
 代わりに『おやすみ』と書き換えて送信する。疑問形で返せば、ラリーが続く。

 なんとなくそれが億劫だった。

 あんなに友達がほしいと願っていたのに。人間というのは勝手なものだ。
 明日は、冬花ちゃん以外の人とも遊んでみよう。
 人間関係をまともに築くことができなかった僕にとって、たった一日で状況が一変したのだ。
 欲しかったものが、ぽんと手に入ったことが、まだ実感として受け入れられないだけに違いない。

 友達が出来るという日常は思っていたよりも労力を使う。

 僕は冷蔵庫から冷えたペットボトルのお茶を一気に飲み下し、ふるふると頭を振った。
 窓辺に歩み寄って外を見ると、空はすっかり暗くなっていて夜の海が遠くに見えた。
 窓を開けてベランダの隅に置いている餌入れを確認すると、キャットフードは半分ほどしか減っていなかった。

 コパン......体調が悪いのだろうか。

 いつもなら、おかわりをくれと催促してくるほど食い意地が張っているのに。
 だが、猫は気まぐれな生き物だ。もしかしたら、ヨルを警戒しているのかもしれない。
 しばらく窓を開けて、コパンがやってくるのを待っていたが、結局彼がベランダに現れることはなかった。