柊と距離をとって背を向ける。
柊は慌てたように回り込んで騒ぎ出した。

「わー! まって、嘘だよ冗談だって! 遥風のキスは不器用な感じが可愛くていいの。なんとも言えない特別感と優越感が……!」
「うっせー! とっとと教室戻るぞ。バカ柊!」

つかつかと柊を置いて歩き出せば、すかさず追ってきた彼に腕を捕まれ、振り返った拍子に柔らかい何かが唇を掠める。

「機嫌直して、ね?」
「…ムカつく」
「なんで!?」

キスで機嫌が直ると思ってんのも、無駄に優しくてスマートなとこもだ!

予鈴が鳴るまでしばらく問答は続いた。

転校してきた頃蒸し暑かった風はすっかり冷たくなり、落ち葉を巻き込み木々を揺らす。

秘密を知ったこの場所で始まった俺たちの関係も、そうして移ろい変わっていくのかもしれない。

それでも、今この瞬間、彼を好きだという甘く優しい恋情を大切にしたいと、俺は密かに想った。