前にもあったな、こんなこと。

体育の最中にぼーっとしていて、ボールを避けきれなかった。
確かあの時はサッカーをしていて、そうだ、柊のことを考えていたんだ。

俺って学習しねぇな。

払拭したくて、保健室の扉は静かに開けた。

「すみません、突き指してしまって…」
「あらあら、あなた前にも来たわね? ほら、鼻の上を青くして。今日は突き指? また考え事でもしていたのかしら」

保健医の朗らかな笑みに俺は穴があったら入りたい思いで入室する。
いろんな生徒が来るはずなのに、そんな間抜けな話を覚えているなんて。

保健室のベッドはひとつ埋まっていた。

「あなた、柊くんのお友達よね?」
「え、あ、はい、そう…です」

手馴れたスピードで指の手当をしながら、保健医はゆったりと話す。

「ちょうどよかったわ。もう授業も終わるでしょう? 柊くんのこと、教室に連れていってあげてちょうだい」
「え、?」

素っ頓狂な声を上げた俺は、保健室の一番奥、カーテンで仕切られたベッドを見やる。

柊の秘密――サボりがサボりでないことを知ったあの日、彼はあのカーテンの向こうで俺の話を聞いていて、笑いを堪えきれず出てきたんだっけ。

そんな偶然あるか…?

信じられない気持ちでそちらを凝視していたら、すごい勢いでカーテンが開く。

翻した布から顔を出したのは、柊だった。

「ちょっと、タエちゃん! 情報漏洩! 守秘義務!」

不満げに、そしてバツが悪そうに文句を口にする柊に対し保健医は顔色を変えずあっけらかんと返す。

「あらまぁ、元気じゃないの。起きたなら教室に行きなさい。私は少し外すから、鍵は後で返しに来てね。 柊くん、病み上がりなんだから無理はしないように」
「はぁい。 ありがと、せんせー」

保健医が出ていって、しんと静まる。秒針の音だけがやけに響いて聞こえた。

「……来てたのかよ」
「うん。 ちょうど体育だったからここに来て、寝不足だったのがバレてタエちゃんが寝てなさいって」
「寝不足? 熱でずっと寝込んでたんじゃないのか?」
「う、昨日の昼までは寝てたよ。けど、夜眠れなくて…」

口ごもる柊に、俺はぼそりと零す。