そんな柊を知ってか知らずか、保健医は有無を言わさぬ表情で体温計を押し付ける。

居心地の悪そうな様子で柊は検温を始めた。俺は立ち上がり、氷嚢を適当にテーブルに置いて言った。

「先生、ありがとうございました。俺戻ります」
「あ、そう? 氷嚢はそのままで良いわよ。また何かあったら遠慮しないで来てね」

保健医に軽く頭を下げ、柊の方をちらりと見やると、彼は複雑そうななんとも言えない顔でこちらを見て、それから視線を落とした。
俺は何も言わずに保健室を後にした。

柊汐凪の弱みを握った。そんな意地の悪い感想を抱きながら、俺は落ち着かない。普段クラスの中心にいて誰よりも明るく楽しそうな彼の繊細なところを見てしまった。柊はどこか悪いのか?…いや、別に。心配とかじゃないけど。俺には関係ない。

まぁ、これであいつも俺に話しかけて来ないだろうな。知られたくないことを知られて態度を変えざるを得ないだろうし。
ただ、転校当初目指してたクラスでの振る舞いを取り戻せるかもしれない。俺にとっては都合のいいことこの上ないじゃないか。
…柊が遠くにいる日々を想像して、物足りないだろうとかそんなこと、思うのはおかしいだろ。