それから柊と俺と中野の3人で帰宅することが増えた。
柊は何も言わないけど、本当は嫌なんだろうと思う。
だが、距離感的にはただ先輩を慕う後輩の図であるために、中野を拒否することはできないでいた。
そのうち飽きるだろうと軽く考えていたのもある。

ところが、とある部活後のことだった。

照明を落として夜闇に包まれた体育館前。
鍵の管理の当番の俺に付き合って、中野も居残っていた時だ。

「遥風先輩」

後輩の呼ぶ声に、施錠しながら返事をする。

「僕、やっぱり無理です」
「なにが?」

突然何の話かと振り返ると、中野がぐいっと距離を詰めた。
服の袖を掴み俺を見上げるその表情は悲痛に歪められていた。

「先輩と友達のままは嫌なんです!」

俺は混乱しきった頭で言葉の意味を咀嚼する。
その先の台詞を想像し、俺は彼との距離を見誤ったのだと悟った。

俺の恋人――柊に対する微かな敵意。
この間の違和感は、気のせいなんかじゃなかったのだ。

「好きです。先輩のこと、同じ部活になってからずっと…!」
「中野、」
「分かってます。遥風先輩は柊先輩と付き合ってるんですよね」

彼が気づいていたことに驚くが、今は好都合だ。
俺ははっきりと頷き、彼の手を自分の体から離して言う。

「そうだよ。柊は俺の大切な人。だから、ごめん。友達でいられないなら、今後中野とは今みたいな距離感ではいられない」
「……はい。こうなるって分かってても、伝えたかったんです。困らせてしまってごめんなさい」
「いや、…こっちこそ、ごめん。中野の気持ち考えられなくて、」

それでも、俺にとって何より大切にしたいのは柊なんだ。

「いいんです。 遥風先輩と柊先輩がお付き合いしていることも、誰にも言いません」

中野はそう言って頭を下げ、「お疲れ様です」と帰っていった。

誰にも言わない、か……。

「…こんなに大事なのに、ずっと隠したままでいるのか…?」

ぽつりと呟いた声は、寒空の下、吐息と共に消えていった。