「はるか…って、呼んでた」

くぐもった声が不安げに揺れる。吐息が耳にかかってくすぐったい。

全く、こいつは何を毎回毎回心配してるんだか。

「名前呼ばれて嬉しいの、汐凪だけだから。いちいち不安がるなって。そんなんじゃ俺、この先友達できないじゃねーか」
「俺がいればそれでいいじゃん…」
「めんどくせーやつだな。おまえは恋人!何より特別! 友達は別の話だろ!」

べしべしと背を叩き言い放つと、柊はゆらりと頭を持ち上げ、俺を見上げた。

柊の上目遣い、レアだ。くそ。カッコよくてムカつく。

「…遥風、最近そういうことさらっと言うようになったよね」
「誰かさんがよく求めてくるからな。いい加減耐性ついたわ」

接触系は慣れないが、言葉にするのはだいぶできるようになったと思う。
柊はふにゃりと笑う。

「好き。…じゃあさ、ついでにいっこワガママ聞いて」
「…内容による」
「遥風を食べたい」
「は、? 食べ…――っ、!? いっってぇ!!」

首元に走ったピリリとした痛みに俺は叫ぶ。

びっっくりした。てか、こいつ今噛んだのか!?

「お、おまっ、何してんの!?」
「ごめん、痛かった? 思ったより力入っちゃった」
「食べるって、噛っ、歯、バカなの…?」

驚きすぎて支離滅裂な言葉しか出てこない。

なんかずっとピリピリして痛いし!

「…制服着てたらギリ見えないから大丈夫」
「キスマならもっとそれっぽくつけろよ!」

いやもう、何言ってんだ俺も。

「え、じゃあもっかいやっていい?」
「ダメに決まってんだろ!」

俺が言い切ると柊は不服そうにする。

ほんとこいつ、面倒で危なっかしくてわけわかんねぇ!


その晩、俺は入浴時に鏡に映った自分の首元を見て再び頭を抱えた。