……と思っていたのに。

「遥風せんぱーい! 一緒に帰りましょう!」
「中野?」

ちょっと今は、だいぶ、マズイ――

「誰。その子」

ほら、横を歩いてた柊の声が一際低い。明らかに敵対心、警戒心丸出しだ。

「部活の後輩。きのう、友達になった」
「…なにそれ?」

俺も分からん。

「ふーん。 ナカノくん? 俺、柊汐凪です。遥風とは、親友なんだ」

俺たちが付き合っていることは誰にも言っていない。
公表する勇気がなくて、俺が相手は伏せていたいと言った。
柊はそれを尊重してくれている形なので、〝親友〟の部分をやたら強調しているものの控えているつもりなのだろう。

…これ3人で帰るとか、俺の心臓持たないかも。

「そうだったんですね! 柊先輩って、女の子にすごくモテてますよね。1年の間でもカッコイイって皆言ってます」
「そう。俺は別に興味ないけど」

柊…おまえまじで、もうちょっと愛想良くしろよ!
俺とふたりの時間を邪魔されたのにムカついてるのは分かるが、その態度じゃ怪しまれるじゃねーか。

「な、中野。知ってるかもだけど、柊には付き合ってるやつがいて、こいつその人のことめちゃくちゃ好きだから。他の子は眼中に無いって感じらしいんだよ」

あはは、と茶化すように笑ってみせる俺は一体なんのフォローをしているんだ…?

「なるほど。一途なんですね。 遥風先輩は?」
「え、俺?」
「彼女さんとかいるんですか?」
「俺、は…まぁ、一応……」

彼女と言われると頷き難い。柊は彼女って感じじゃないだろ、どう考えても。どっちかというと彼氏側? いや、でもそれだと俺が彼女ってことに……

「いいなー。遥風先輩と付き合える人は幸せですね」
「そ、そう、かな…?」

ただのよくある恋バナ、だよな。

ちらりと柊を見やると、表情は特に変わらない。

それが逆に怖いんだよなぁ……