「…俺からしたら、遥風が全く妬いてる気配がないのも複雑なんだけど……」
「おまえがモテるのは知ってたし。それがデフォルトっていうか。……柊が、俺のことすげーすきなの、伝わってくるし…べつに……」

言いながら、頬に熱が集まるのを感じてしりすぼみになる。

「っ、おまえが、ところ構わず絡んでくるから…!」

言い訳みたいに付け足すと、柊はあはは、と楽しそうに笑った。

「遥風は毎回反応がピュアで余計唆るんだよね。それに好きな人には、愛されてるなって実感してほしいじゃん」
「…自分の気持ち認めんのに混乱とかしなかったのかよ」
「まぁ、俺って男好きになるんだ、とは思ったけど。遥風のこと好きだなって気持ちが大きくなる方が早かった」
「…あっそ」

あっけらかんとした物言いに、俺はなんだか悔しくなる。
それからどこまでもストレートな言葉をどう受けとったものか悩んで、流れゆく景色に視線を移した。

「自分で聞いておいて照れてるでしょ」
「照れてない」
「耳まで赤いのに?」
「さ、寒いからだろ! てか、もう中戻るぞ。おまえが風邪でも引いたら困る」
「え〜、もうちょっとここにいようよ」
「ダメだ! 戻る!」

柊のペースに飲み込まれる前にと言い募る。

船はまだ海の上をゆったりと進んでいた。

その日の夜、ホテルでの夕食の時にクラスメイトが今日のことを楽しげに話しているのを聞いて、絶景を拝むのを忘れたことを思い出した。





最終日は福岡県内に活動地を移し、夕刻の新幹線で戻った。

結局、4日間柊に翻弄されっぱなしの修学旅行だった気がする。

……楽しかったし、それも悪くないけれど。