ところが、そんなに単純な人間では無いとばかりに柊が動く。

俺の顔の横に手をつき、やや上から俺を見下ろして不敵な笑みを浮かべた。

「可愛いことしてくれるじゃん。…でもそんなことされたら、もっと欲しくなるんだけど」

言うなり、吸い寄せられるように唇を奪われる。
重なる毎に冷たい柊の温度が俺のそれと交じりあって熱くなるのを感じる。

ほんの軽い触れ合いも、柊の愛情が余すことなく伝わってくるようで胸の奥が疼いた。

「…前から思ってたけどおまえ、なんか慣れてるよな。今まで付き合ってきた人たちとは、こう、…いろいろ違うんじゃねぇの?」

柊の瞳に危険な熱情が宿らないうちに距離を取る。デッキの柵の前まで歩いて、風に当たることにした。
俺の言葉に柊はきょとんとする。

「俺、こういうの初めてだよ。遥風に幻滅されないようにカッコつけてるだけ。でも、全然余裕はない」

たしかに、余裕があったら嫉妬なんかしないか。
表情はいつだって飄々としているのに。