「もし良かったら、まずは友達になってほしいなって!」
「……ごめん。付き合ってる人がいるんだ。その人のことを悲しませたくないから、友達にはなれない」

告白って、勇気がいるんだよな。

自分の想いを伝えることは決して簡単ではない。
俺がそうだったから、やっとその気持ちが分かったばかりなのだけど。

きっぱりと断ると、彼女は船の中に戻って行った。

断る方もそれなりにダメージを受けるというのは、贅沢な悩みだと言われるだろうか。

久しぶりだな、この感じ。

ふぅと息を吐き出して、外に出てからずっと気になっていたことを口にする。

「盗み聞きとか、趣味悪いぞ。柊」
「バレてたか〜」

案外潔く姿を現した柊は、全く悪びれもせずへらりと笑う。

「遥風が本格的にモテるようになって焦るなぁ」
「…嘘つけ。顔が笑ってんぞ」
「今すぐ押し倒したいくらいには妬いてるけど?」
「…ちゃんと断ったの、聞いてたんだろーが」
「うん。俺のためにって気持ちは嬉しかった」

このまま放っておくとそのうち襲われる気がする…。

欲深いこの恋人に満足してもらうには、何がいいだろう。
たぶん1番効果があるのは分かってる。

それを実行するか否か……

周りに人はいない。海上は寒くて風が強いので、わざわざデッキに上がったりしないのだろう。

俺は柊の横顔を盗み見て、それから意を決してその形の好い唇に軽くキスをしてみる。

「……これで自信ついたか」

捨て台詞のようになってしまうのは許してほしい。今の俺の精一杯をぶつけたのだ。頼むから、十分だと喜んでくれ。