遊覧船は初めて乗ったが、結構好きかもしれない。
時間がゆっくり流れているような感覚が眠気を誘う。
客室の窓から揺れる水面をぼーっと眺めていたら、不意に聞きなれない声が意識を呼び戻す。
「あの、雨谷くん!」
話したことの無い女子が、緊張した面持ちで俺を見下ろしていた。
隣には、「ほら、早く言いなよっ」とその子を小声でせっつくもう1人の女子。
ああ、これは……
「ちょっと、いいかな」
「うん。なに?」
「こ、ここじゃなくて、外に出ない?」
「……分かった」
デッキまで出て、冷たい潮風を凌げる所で向かい合う。
「雨谷くんのことが好きです。雨谷くんは覚えてないかもしれないけど、前に学校で落としたものを拾ってくれたことがあるの」
…覚えていない。生憎、日常にありふれていることをこと細かく覚えていられるほど俺の頭のキャパは大きくない。