「――雨谷?」

しばらく会っていなくても、声は覚えている。
あの時、俺を責めた男の声。

「藤…村……」

藤村の彼女を寝取ったという濡れ衣が、再び体にまとわりつく。
そんな最悪な気分で、俺はそいつの名前を呼んだ。

「…久しぶり。修学旅行、か?」
「…ああ」

ぎこちない会話に場の空気は冷え冷えとしている。
さっき見かけた集団は、よくつるんでたクラスメイトだ。たしかにその中に藤村はいなかった。わざわざ避けてきたのに、別行動をしていたのだろうか。

どうしてわざわざ声をかけてきた?
俺たちの関係は壊れたまま、修復することはなく終わったはずだ。

「せっかく、会えたんだ。少し話せないか」

あろうことか、藤村は予想外のことを言い出す。

そばに居た柊が小さく俺のシャツを引っ張るのが、いつでも逃げ出せるのだと伝えてくれているようだった。

逃げ道があるなら、逃げていては駄目だ。
俺は心を決めて藤村を見据える。

「分かった。――悪い、ちょっと行ってくる」
「俺のことは気にしなくていいよ」

心配げな表情の柊に、大丈夫だと笑んで、俺は藤村と少し離れた人気のない場所に移動した。