保健室の戸を開けると思いのほか勢いがついてしまった。
保健医と目が合い、何となく気まずい。

「扉はもう少し優しく開けてね。 どうかした?怪我?」
「すみません。 …顔に、ボールが当たって…何ともないんですけど、念の為保健室に行けと言われて来ました」
「あら大変。ちょっとこっち来て、ここ座って〜」

保健医はのんきな話し方をする。年は母親より少し上くらいだろうか。親しみやすいから生徒に人気だと聞いたことがある。

俺は丸椅子におずおずと腰掛け、なんとなく周りを見回す。ベッドが1つ埋まっていた。誰か寝てるのか。だったら先程大きな音を立ててしまって申し訳なかった。

「少し青くなってるわね、鼻の上のところ。鼻血が出なくて良かったわねぇ」
「…はい」

保健医の観察のあと鼻の上に氷嚢を置かれ、それを受け取る。

「ボール、避けられなかったの?」
「…はい。少し、考え事をしていて…」

恥ずかしいから聞かないでほしかった。カーテンの向こうの誰かに聞かれていたらと思うと余計に。保健医は気にしていないようで、「体調が悪かったわけじゃないのね。 気をつけなさいね〜」と片手間に返してきた。

「はい…」

氷嚢のせいでさっきから鼻声なのでなんだか自分がものすごく間抜けになった気分だった。
早く戻ろう。あとどのくらい冷やせばいいんだろう。そう思って壁掛けの時計に目をやった時だ。

ふっ。と微かに耳に届いた誰かの笑い声。次第に堪えきれなくなったのかはっきりと聞こえるようになる。