「っ、せ、汐凪、! 離せ――」
「ん。いい子」

優しげな笑みに一瞬安堵してほっと息をつく間もなく、唇を塞がれる。
触れるだけのキスが、どんどん激しさを増す。

「だ、めだって、こんなとこで、」
「言ったでしょ。悪いことしよって」

いたずらで、妖艶とも言える甘美な表情も声も体温も、全部が俺の思考を支配する。
ダメだと分かっているのに抗えない。
こんなにキスが気持ちいいなんて知らなかった。
柊の部屋でのあのキスも嫌だとは思わなかったけど、驚きと羞恥で余裕がなかったから。

このまま柊に食われるんじゃないかと、本気で思い始めた時。

ガチャリと部屋のドアが開く音がして柊の動きが止まる。

「いや〜、高瀬に見つかったのは運なさすぎたな」

浅井の声だ。
こんなところを見られるのは恥ずかしすぎるだろ…!

俺はキスを止めた柊の下から素早く抜け出して立ち上がる。裏返らないよう慎重に、至極平然と戻ってきた2人を迎えた。

「戻ってくんの、早かったな」
「そーなんだよ! エレベーター乗ろうとしたら中に高瀬がいて心臓止まるかと思った。 てか柊、もう寝てんの?」
「あ…あー、うん。疲れたって、2人が行ってすぐ……」
「随分と寝づらそうだな」

うつ伏せで斜めに足がはみ出した状態の柊を見た海堂の冷静なツッコミに、俺は苦笑する。

他の人の部屋に出入りしてはいけないというありがちなルールが、ありがたくも恨めしくも思えた修学旅行1日目の夜だった。