1日目はその後ホテルにチェックインし、夕食を取るという行程だ。
4人部屋に運び入れられていた荷物を確認すれば、夕食まで時間に余裕がある。
浅井と海堂は他の部屋に遊びに行くと言って早々に出ていった。
おかげで俺は柊とふたりきり。本来なら喜ぶところなのかもしれないが、こいつといると俺の心臓は平常ではいられないので困る。
「…柊は行かなくていいのか?」
黙っているには落ち着かなくてなんとなく口を開くと、荷物から顔を上げた柊と目が合う。
「好きな人とふたりきりのチャンスなのに俺が行くと思う?」
「だって、おまえ仲良いやつ多いし…」
「俺のいちばんは遥風だよ」
すくっと立ち上がった柊を見上げる形になって、まずい、と本能的に悟った。
柊が長い足を1歩でも踏み出せば、距離はあっという間に詰まる。
俺の後ろにはシワひとつなく整えられたベッド。
肩を押され、膝が折れたら最後。そのまま押し倒され、柊の端正な顔が間近に迫った。
「ね、ちょっと悪いことしようか」
「は、?」
「そうだな。まずは俺のお願いを聞いてくれる?」
目を細めて人の好さそうな笑みを浮かべる柊の表情が、聞いてくれる?なんて言っておきながらこちらに拒否権はないことを物語っている。
「俺のこと、名前で呼んで」
いつもより低く、落ち着いた声音が脳に直接響くような感覚。目の前の恋人のことで頭が埋め尽くされて、俺は乾ききった喉を鳴らした。
「今さら、だろっ、それより離れろよ。浅井と海堂が戻ってきたら、」
「2人は夕飯の会場で合流するって言ってたでしょ」
「でもっ、」
「呼んでくれるまで離さないよ」
少し身じろぐだけで体のどこかしらが触れそうなこの体制も、柊のお願いも、さらっと受け入れられるほど俺は慣れていないし冷静じゃない。
どうにか上に覆いかぶさっている柊から逃れたくて彼の胸に腕を伸ばすと、すかさず捕らえられシーツに押し付けられる。
どこにそんな力があるのかと驚くくらいには、俺は身動きが取れなくなった。
こんな状況では頭も上手く回らず、テンパった脳はもう諦めろと訴えだす。
ダメだ。このままこの距離でいられる方がおかしくなる。