「遥風」
「な、なんだよ」
「俺から離れないで」

思った通り、柊の瞳は鋭く俺を射抜いていた。

つまりは、俺が女子にモテるのが気に食わないのだ。

何も知らない頃は、自分はモテモテのくせに嫌味なやつだと思っていたが今なら分かる。
これは、ただ妬いてるだけなのだ。柊は嫉妬深い。

心配しなくても、浮気なんかしないっての。

「……離れねーよ。てか、修学旅行ではぐれたら説教コースだろ」

そういうことじゃない。と柊の表情が言っているが、俺はスルーした。
彼の馬鹿正直な恋人としての振る舞いをいちいち真に受けていたら身が持たない。

公衆の面前でイチャつくつもりも、毛頭ない。



――そう思っていたのだが。

「遥風も食べる?」

柊が買ったものの1口目を、彼の手ずから俺の口元に持ってくるのだ。

自分で食べるからと断っても、有無を言わさぬ笑顔で押し切られ、結局俺は黙って口を開ける他なかった。

一緒に周っていた浅井と海堂は餌付けだなんだと面白がっていたが、俺は毎回頬が熱くて落ち着かない。

中華街は観光客で賑わっていた。俺たちの他に修学旅行で来ている学生も見られて、人も沢山いるところで一体何を考えているんだか柊は俺がもそもそと口を動かすのを満足そうに眺めていた。

こういうこと、柊は慣れてるんだろうな。デートとか、いろいろ。
なんせ俺はそっち方面の経験が浅くて、いちいち反応に困るのだ。

「ほら、行くよ」

考えていたそばから、柊はごく自然に俺の手を取り歩き出してしまう。

しれっと手、繋いでんなよ。
ぼーっとしてた俺も悪いけど。
もしかしてずっとこのまま行く気か?

そんな俺の思考を読み取ったかのように、柊は人混みを器用に進みながら握った手にきゅっと力を込めた。

俺は離すのを諦めて、柊の通った後をそっくりついていく。

…好きな人と手繋いでて、嫌なわけないんだよな。

声には出さず独り言を浮かべて俯けば骨筋の通った綺麗な手が目に映る。

そこから伝わる柊の体温に今さらどくんと心臓が鳴って、顔に熱が集まるのをどうしようかしばらく考えあぐねていた。