コートとマフラーをタンスから引っ張り出し、本格的に冬を感じるようになった12月。

新幹線で約5時間。修学旅行の始まりは長い移動時間からだ。
俺は目を閉じて睡眠に徹していた。隣が静かに過ごすタイプの浅井でよかった。

柊は少し離れた席で海堂といる。クラスの中心人物はそれらしく仲間とお菓子を分け合っては楽しそうに笑い声を上げていた。公共交通機関での節度を守りつつ盛り上げ役を担っている柊は、こういう時別世界の人間に感じる。

そんな、俺にないものを持っているあいつが恋人になったなんて。人生何があるか分からないよなぁ、としみじみ思いながら、程よい揺れに身を任せ意識を閉じた。


ふと、鼻腔をくすぐる心地よい香りに意識が浮上する。
何か固くて狭いところに頭を預けていたせいで首が痛い。まだ新幹線の中だというのをやっと認識して、寄りかかっていたのが肩だったことにも気づいた。

「…わるい、重かったよな」
「全然。恋人の寝顔を見られて最高だったよ」

しかし、予想していたものではない声が降ってきて、俺は顔を上げた。

「柊、?」

別なとこで盛り上がっていたはずの柊が浅井とすり変わっていることに驚きを隠せないでいると、柊がにこにこと楽しそうに話す。

「トイレに立ったらさ、遥風に寄りかかられてる浅井を見つけて、代わってもらった。俺を差し置いて遥風の枕になんてさせてやれないからね」
「……何言ってんの」

俺がどんなに渋い顔をしても、柊は気にしない。

「俺が楽しませるって言ったの、忘れた?」

そういえば、そんなこと言ってたな。
実行委員で何かとやることはあるし、場を盛り下げない程度に過ごそうと思ってたんだけど。

柊の余裕の笑みに、俺はひとまず到着まで寝たふりを決め込むことにした。