俺は公園で駒木さんの話を聞いた。
職員室で教師に、よく本の感想文を書いて高瀬先生のところに持って行っているのを特別扱いだと咎められたらしい。

聞けばそれを言ってきたのは、嫌いな教師の話でよく名前の上がるオバサン先生だそう。他の教師の目には熱心な優等生に映っているだろうし、高瀬先生が迷惑がるとは思えないと俺が言うと、駒木さんは平静を取り戻したようだった。

事はその次の日、放課後に起こった。
駒木さんが委員会で使う資料を届けに教室に顔を出した時だ。

「雨谷って駒木と付き合ってんの?」

無駄によく通る声で、思慮もへったくれもあったもんじゃない一言。

教室中にざわめきが広がるには十分すぎるセリフ。

俺も、駒木さんも突然のことに反応が遅れたのが不味かった。

「いや、付き合ってな――」
「おいおい、俺らのマドンナを独り占めとかずりーぞ!」
「だから違うって、!」

必死で否定しながら、俺は首をめぐらせて彼を探した。

こんなの、柊に聞かれたくない。

柊は後ろのドアから教室を出ていくところだった。
絶対、今のは聞こえてたはずで、俺は衝動的にあいつを追う。
逃げ足の早いやつだ。今行かなきゃ、たぶんもう、柊は俺を見てくれない。

俺は女子の群れを縫うように教室を出て、その中心にいた駒木さんに詫びる。

「ごめん、駒木さん。 それ明日でもいい?」
「ぜんっぜん大丈夫! こっちは任せて」

後半は小声で、小さく拳を握ってがんばれ、と笑ってくれる駒木さんに強く頷いた。