その日部活を終えると、体育館の外にその背を見つける。この感じは前にもあった。でも今日は正直会いたくなかった。数時間前に見た光景が頭から離れてくれなくて、整理がつかない。

「…柊」
「あ、遥風。おつかれ」
「なんでいるんだよ」

つい無愛想な言い方をしてしまう自分に呆れる。柊は慣れてると言った様子で続けた。

「今日、遥風が変だったから。何か言いたいことでもあるのかと思って待っててみた。悩み事なら俺が聞くよ」

俺は黙って俯く。
悩み事…他ならぬおまえのことだと言ったら、柊はどうするのだろう。おまえに抱いているこの感情を、口にするにはまだ儚く、自信が無いのだ。

何も答えない俺に痺れを切らした柊が一歩踏み出す。
バッと両手を持ち上げたかと思えば、俺の頬を優しく挟んで美しく笑みを湛える。

「俺じゃ頼りない?」

柊は前にもそう言った。
違う。そんなんじゃない。おまえだから、言えないんだよ。

柊の手は冷たかった。あの日と同じくらい、いやそれ以上に。
今の俺にはそれすらも心を掻き乱す材料になった。

こんなところで待ってたら風邪ひくだろ。やめろって言ったじゃん。

口をついて出たのは、そんななけなしの文句ではなかった。

「…っ、触るな」

自分でもびっくりするほど低く響いた声色に、柊の指がピクリと揺れる。

すっと離れていった冷たい温度に今さら焦って顔を上げれば、俺より少し高い位置にある端正な顔は切なげに常夜灯に照らされていた。

「ごめん。調子乗った」
「柊、」
「帰ろ。 寒いよ、遥風が風邪ひいちゃう」

こっちのセリフだ、と出かかった言葉は喉に引っかかって消える。

他の部員が皆用事があるとかで早々に帰っていったおかげで、今ここに2人きりなのが幸か不幸か。

おまえに触れられると、鼓動が早まって落ち着かないんだよ。その手が他の誰かを優しく包んでいたと思うと、胸が苦しくてどうしようもなくなるんだ。

…そう言葉にするには、やはりまだ淡かった。