…観察すればするほどやつを嫌いになる気がしてきた。
駒木さんのアドバイス通り、柊の観察を始めて早々に思う。

観察対象のそいつの周りはとにかく人が多い。今に始まったことじゃないし分かってたつもりだったが、こうして見ていると本当に……人たらしってああいうのを言うんだろう。

柊はずっと笑っていた。何がそんなに楽しいのか、誰と話していても笑顔が絶えない。…たぶん、半分は作ってんだろうな。休み時間が終わって席に戻った途端の真顔と来たら。温度差半端ない。いっそ怖いわ。

前の学校ではそれなりに友達が多い方だと思っていた俺も、そこまで明るいキャラではなかった。まぁ、所詮は上辺だけの関係だったんだけど。

「どうしたの、遥風」
「別に。人気者は大変だなって思っただけ」

教師が号令をかけたのをいいことにふいと視線を逸らす。柊は意味がわからないという顔で小首を傾げていた。



部活の時間まで、そうして柊の観察を続けた。俺は困り果てていた。これ、いつまで続ければいいんだ。柊が何をしていても、イケメンだよなとは思うがカッコイイ場面なんてなかったし。あんな風にキスしてきたとは思えないくらいには、柊は爽やかな振る舞いをする。そして俺は自分からしかけたやつと柊にされたのを思い出しては、変な気分になって目を逸らした。

浅井と連れ立って部活のため体育館へ向かっていても、俺は考えた。
そもそも柊はなんで俺なんだ?あいつなら可愛い女の子選び放題だろ。

ふと、視界の端に見慣れた黒髪長身が映った。柊は最近前髪を分けるのをやめて下ろしている。結構印象が変わるんだ、これが。本人曰く冬だから、らしい。まぁ、やつが坊主になったところで女子人気は落ちないのだろう。たった今も彼は背の低い女子と対峙している。

思わずそちらに目をやったら、何故だか釘付けになった。

雰囲気的に告白なのは間違いない。柊の明らかに困り顔を見る限り、振ったところか。
女子の方は諦めきれないのか、言い募っているように見える。また柊は首を横に振った。
口の形が『ごめん』と動く。その瞬間、女子が柊の体に抱きついた。

突然すぎて、柊は驚いた顔をする。すぐに距離をとるように窘めていたけれど、俺は呼吸も忘れて見入った。

柊が両手で肩に触れ、泣き出した女子を宥めるように眉根を下げる。