「私ばっかり恥ずかしいのずるい! こんなこと急に聞いてくるってことは、雨谷くんにも好きな人がいるんでしょ?話してもらうからね!」

うっと言葉に詰まる。俺は言い淀んで、小さく呟く。

「好きな人というか…告白…されたんだ。俺は、そういう感じでそいつのこと見てなかったし、どうしていいか分からなくて」
「ええ! 雨谷くん、モテるもんね。6組の転校生がイケメンだってうちのクラスでも話題になってたくらい 」

駒木さんに憧れている男がどれほどいるか、本人は知らないのか?俺なんかよりよっぽどモテるだろう。
俺は口に出さず曖昧に笑う。

「振らないの?」
「え、?」
「だって、雨谷くんはその人のこと好きじゃないんでしょう?」

…そうだ。俺は柊のことは好きじゃない。むしろ、ずかずかと近づいてきて俺の心をかき乱すから嫌いなんだ。
俺はおまえの気持ちには答えられないって、なんですぐに言わなかったんだ。
押し黙る俺を駒木さんはくすっと笑う。

「ふ〜ん。振れないんだ。ねぇ、その人は、雨谷くんにとってどんな人?」
「…ムカつく、けど、危なっかしくてほっとけない…みたいな」
「恋愛的な意味で好きかは分からないけど、雨谷くんはその人のことが大切なんだね〜」

大切…?柊が?……俺はそんなこと思ってるのか?

体育で無茶した柊を見つけた時は、すごく焦った。良心が痛むから無視できなかっただけで、柊が心配だったとか気にかけていたとか、そんなんじゃないと思っていた。実際はやたら気になっていたけど、それはあいつの秘密を知ってしまったからで……。

なんて、こんなの言い訳みたいじゃないか。

「じゃあさ、もしもその人が他の人と付き合ったら嫌?」
「それは……分からない」

俺のはっきりしない答えに駒木さんは何度か頷く。

「とりあえず、観察してみたらどうかな。好きな人のことは自然と目で追っちゃうでしょ? 雨谷くんは、好きかどうか確かめるためにするの」

好きかどうか…確かめる……たしかに、それしかないかもしれない。これで俺が好きじゃないと分かれば、きっぱり断ればいいのだ。
柊は『諦めない』とか言ってたけど、いつまでも宙ぶらりんは嫌だろ。

「やってみる。ありがとう、駒木さん」
「いえいえ! …ところで、さっきから視線を感じるんだけど…柊じゃない?」
「え、?」

駒木さんに釣られて廊下を見ると、ガララと雑にドアを開けて柊が教室に入ってきた。