「んー。 じゃあさ、せめて遥風が安眠できるように手助けさせて」

にっと悪戯っぽく微笑むから、俺は身構えた。
柊がベッドに手をついて、軋む音が響く。

「柊、待て…」

俺は柊の手によってベッドに寝かされた。そしてそのまま撫でるように髪を梳く。
…思っていたのと違う。てっきりまたキスでもされるのかと……

「手も繋ごうか?」
「いらん。 その手もやめろ!」
「えー。さっきは気持ちよさそうに寝てたのに」

それはほぼ無意識だろ! いや待て、この場合無意識の方が問題なのでは……あーもう!呑気に寝てんなよ俺!

俺はバツが悪くて壁側を向いて毛布を頭まで被った。

「…悪かった。もう帰っていいから」

俺のくぐもった声に柊は何も返さない。

「…柊?」

あまりに静かなのが怪訝で、俺は布団から抜け出す。体調でも悪くなったのかと心配してしまったのだ。
柊と目が合ったと思った瞬間、肩を押され体が反転する。ベッドに片膝だけ乗っかった柊が覆い被さるように俺を見下ろしていた。

「遥風さ、ちょっと俺の前で気抜きすぎじゃない?」

突然のことでされるがままの俺に、柊は目を細めて言った。

「好きって言ってからも普通に接してくれるから、少しは意識してくれたかなって思ってたのに、平気で寝ちゃうし。俺が疲れてる遥風の寝込みを襲う悪い男だったらどうするの?」

こいつ…もしかして拗ねてんのか!?さっきまでほんとに心配してくれてると思ってたのに!
こっちは必死に普通に見えるように振舞ってんだよ、!
俺だってほんとは、どうしたらいいか分からない。あの日から、柊が何考えてるかも分からないままだ。自分から『おまえは俺とどうなりたいんだよ』なんて聞けるわけないだろ!

反論しようとして、柊の顔がぐっと角度をつけて近づく。

キス…されっ、

体が覚えたせいで反射的に目を瞑った。
しかし、何度も味わわされた感触はやってこない。そうっと目を開けると、柊が俺の上から退いた。

「…今はしないよ。遥風が俺を好きになってくれてからにする」
「す、きに…ならなかったら、どうすんだよ」
「なってくれるまで、俺は遥風のこと諦めない」

柊は真剣で、強情な瞳をしていた。

「帰るね。 ちゃんと寝て、ゆっくり休んで」

ゆっくりなんて、休めるかよ…。おまえのせいで完全に目も頭も覚めたっての。
俺はバクバクとうるさい心臓を押さえ、ベッドにどさりと横たえる。

「…好きって…なんだよ……」

ぽつりと独りごち、瞼を閉じた。