「微熱くらいあるのかと思ったけど、無さそうだね。 ほんとに眠いだけ? 頭痛いとかない?」

どくどくと鼓動が早まる。触られただけでそんな風になるのにムカついて、俺は口を尖らせて答えた。

「…誰かさんと違って、風邪とかめったに引かないからな」
「遥風、喧嘩売ってる? 元気があるのは良いことだね?」

すかさず柊がじとっとした目線で責めてくる。こわ。目が怖いって。


柊に半ば引きずられるように帰路に着いた。途中、柊はずっと何かしら喋っていたけど、俺は自分が返事をしたかどうかすら曖昧で上の空だったと思う。

気がついたら家の前にいたところまでは覚えている。が、俺は完全に眠気に頭を支配されていて、どうやって部屋まで来たのかは覚えていない。いつの間にか眠っていて、覚醒してきた頭でぼんやりと考える。

なんか…あったかい。

じんわりとした心地の良い温もりにもう一度身を任せてしまいたかったが、どうやら眠気の方はだいぶ改善されたらしい。

目を開けて、視界が少しずつクリアになっていく。

「あ、遥風。起きた? おはよう」
「ひいら…ぎ…? なんで…」

そこで俺はガバッと身を起こす。なんで柊が…
え、ここ俺の部屋…だよな。

「おお。めっちゃ元気」

けらけらと楽しそうに笑う柊。
記憶が無さすぎるので思い起こそうと頭に手をやろうとして、俺の右手が柊の左手をがっつり掴んでいることに気づいた。

「おわっ!? な、俺、手、」
「寝苦しそうにしてたから手でも繋いであげようと思って。そしたら思いの外強く握り返してくれたよ」

にこにこと説明してくれる柊。知りたくはなかった、己の羞恥。

「ちなみに遥風、家に着いて安心したのか玄関で寝ようとしたからここまで運んだ。 相当疲れてたんだね」
「悪い。 余計な体力使わせた」
「このくらい全然大丈夫だよ。 それより、俺は遥風が心配。忙しそうにしてたよね。…俺じゃ頼りない?」

柊は眉を下げ、少し困ったような笑みを浮かべる。
頼りないってわけじゃ…ないけど…
柊に告白…されて、何も言えなかった俺が、都合のいい時だけ柊を使うみたいで嫌だったというか。

無言をどう捉えたのか、柊は思案顔をする。