「遥風、この前の数学のノート見せてくれない?」
「ん。 前も言ったけど俺、図とか書くの苦手だから汚いよ。他のやつに頼めば?」
「サンキュー。不器用なりに頑張って書いた感あるノート、見るの面白いから遥風のがいい。 あ、おまえここ絶対寝てただろ!」

そう言って指さしてきた文字は、何を書こうとしたのかひょろひょろと頼りない線が変に重なっていた。

「あの先生、話すのゆっくりすぎて子守唄にしか聞こえない。逆に柊はなんで眠くならないわけ?」
「えー、俺が出る1回は貴重だからさ。常に留年の危機感に襲われてるから、寝る気も起きん!」
「たしかにおまえ、たまに遅刻してくるもんな。朝からいてもいつの間にかいなくなってることあるし…あれなんなの? ってか危機感あるならちゃんと朝起きろよ」

柊は自他ともに認めるサボり魔でもあった。この1ヶ月で俺も分かるくらいには。俺があきれ口調で言うと、柊はケラケラ笑って「起きてはいるけどここまで来るのダルすぎる〜」なんて言う。

「ほんとテキトーだな。それでモテてんのが1番意味わかんねーよ」
「えぇ、それほどでも〜!」

褒めてねーし。

柊はサボり魔の割に、勉強はできるらしい。ついこの間、中間テストの結果の上位者が張り出されたのを見て心底驚いたのは記憶に新しい。

柊汐凪、学年総合3位。顔が良くて頭が良くて。これでスポーツまで万能と来たら天は二物も三物も与えすぎだ。

けれど、柊の運動神経については未だ謎のまま。なぜなら彼は決まって体育の時間にいなくなるのだ。
本当に、謎多き読めない男である。故に俺は警戒心を解ききってはいない。