俺は今まで、普通の恋愛をしてきたつもりだ。元カノは2人いるし、彼女がいない時でも女の子は周りにたくさんいた。モテたし、告白をされることも多い。
でも俺はただのチャラ男になるつもりはないから、好きじゃない子とは付き合わなかった。

ところが最近、困ったことがある。

それは俺の人生において前例のない事態だった。




雨谷遥風は、クールでスカした雰囲気のイケメンだった。
夏休み明け初日、前日の夜まで熱を出していた俺は二限の途中から登校した。
クラスのやつらの野次を適当に交わして、俺の周りの席の配置が微妙に変わっていることに気がつく。

そこに、見慣れない男。

ああ、たしか転校生が来るって夏休み中に噂になっていたな。

担任が話に戻ったのを聞きつつ、そいつに話しかけてみた。
もともと人と話すのが好きな俺は、転校生だろうがなんだろうが新しい人間に興味があった。

「ね、もしかして転校生? 俺、柊汐凪。よろしく」

転校生くんは正面から見てもやはり綺麗な顔をしていた。あからさまに嫌そうな顔をしたのを見逃さなかったけど。

「…はるか。これではるかって読むんだ。 よろしく、…柊くん」
「呼び捨てでいいよ。 隣の席だし、仲良くしような!」
「分かった、柊」

あ、こいつ、今俺を関わらない方がいいやつ認定したな。

どういうわけか、遥風は俺たちと必要以上に仲を深めるのを嫌がっているようだった。

そういうのに俄然燃えるのが俺だ。懐かない野良猫を手懐けたい。最初はそんな程度の感覚で、とにかく構い倒した。

本物の野良猫なら余計に嫌われていただろうが、遥風はちゃんと人間だった。面倒くさそうにしながらも無視はしないし、休んだ分のノートもいつも見せてくれた。遥風って、ほんとは優しいんだよね。