「柊…? 話って…」

声は出た。思ったよりも小さかったし弱々しくなったが。
柊が顔を上げ、一歩、俺に近づいた。

「ひ、いらぎ…? やっぱりおまえ、怒って…――んっ…!?」

何が起こったのか、頭が追いつかなかった。
また一歩柊に押しやられ、微妙に開いていた扉が音を立てて閉まった。
俺はそのまま扉に背を預ける他ない。

柊は俺の唇を弄ぶように何度も角度を変えてキスをした。

「…っ、や、あっ…ひ、らぎ…」

息継ぎする間も与えてくれず、ひたすらに食まれる。
さらに、強引に歯列を割ったかと思うと、柊の舌が口腔に押し入ってくるのだ。

「んぅ、ん、やめ…っ、なんでっ…」

勝手に漏れ出る情けない声に死にたくなった。声を抑えようと思えば思うほど、柊はより激しく意地悪に舌を遊ばせる。

どのくらい経ったか…体感ではものすごく長かった。
ようやく柊が俺を解放した。俺の頬に触れていた左手も、扉についていた右手も、散々好き勝手してきた唇も離れていく。
体から力が抜けて、俺はその場に崩れるように座り込んだ。

「…っ、はーっ、」

口の端の涎を手の甲で雑に拭った柊は、今度は俺の目を捉えて離さない。
肩で息をする俺の目は潤んでいて、瞬きしたら涙でも落ちそうだった。

泣いてるんじゃ、なくて、これは、びっくりしたからで、なんで、柊、何考えて…っ、

頭の中はぐちゃぐちゃだ。柊は真剣味を帯びた表情で俺を見据える。そこはかとない色気が漂っていて、俺の中の何かが疼いて、体が熱かった。