なんて、人のことを気にしている場合じゃなかった。
俺は柊と話さなきゃいけない。そしてもう一度ちゃんと謝らなければ。
不快な思いをさせて悪かった、と。
担任が挨拶を終えて放課後、柊がひとりだった。あいつの周りには常に人がいるから今が数少ない絶好のチャンスだ。
席を立って、名前を呼んで、話があると伝えて――
「遥風」
「うおっ、…な、なんだ、突然、」
なんと柊が先に声をかけてきて、俺は驚いて大袈裟な反応をしてしまう。
違う。そんな言い方じゃなくて、もっとこう物腰柔らかに…
「話がある。来て」
なんか、デジャヴ…?
1週間と少しぶりの会話は、会話というかなんというか、断る隙も与えられない間に強制連行、みたいな感じになってしまった。
何も話さない柊に黙って着いていくのは初めてじゃない。あの日、柊の体のことを知った時もこんな感じだった。
だが、今日連れてこられたのはファーストフード店ではなく、柊の家だった。
家族は出払っているらしく、鍵を開けてスタスタ中に入っていく柊。
「上がって」
「お、お邪魔…します…」
ここまで来ると逃げられないというか、ずっと黙っている柊が若干怖くておずおずと後を付いて行った。
柊の部屋に来るのは二回目。物が少なく整頓されていて、柊らしい雰囲気だ。
俺はごくりと生唾を飲んで、それから口を開いた。謎の緊張感で声が掠れないか心配だった。