「遥風〜、来週提出の英語の課題、分かんないとこあるから教えて」
「…柊、俺より頭いいだろ」
「遥風と一緒に勉強したいんだって。ね?お願い」

朝、俺の机の前にしゃがみこんで両手を顔の前で合わせ、小首を傾げる柊。
お願い…って、やめろその上目遣い。
だが、柊は一度言い出したら簡単に諦めるやつじゃないことを知っている。俺は頬杖をついて呆れながら言った。

「仕方ねぇな。 今日の放課後、30分だけだ」
「よっしゃ。ありがと遥風!」

何がそんなに嬉しいんだよ…。席に戻っていく柊を横目で追っていると、近くにいた浅井がふいに呟く。

「なーんか最近、雨谷が柊に優しくなった?」

俺はびっくりして目を見開く。

「え、…は?」

そんな風に見られているとは思わなかった。…たしかに俺自身、柊に前の学校での話をしてからなんというか、勝手に自分のガードが緩んだような気はしていたけど。他人から見てもそうなのか…?

「少し分かるな。柊に上手いこと絆されたか? 野良猫が懐いたような感じがする」

海堂にまでそんなことを言われ、一気に気恥しさが込み上げる。俺は極力冷たく聞こえるように言い放った。

「こいつが勝手に俺の周りをうろちょろしてるだけだろ!」

なおもうーんと考えるような仕草で目を細める。

「なぁ柊、雨谷はツンデレか?」
「そうだね。遥風は素直じゃないから、難しいよね〜」

否定しろよ、クソ柊!
どう反論しようか考えあぐねている間に予鈴が鳴った。
これじゃあ俺がほんとに柊に絆されてるみたいじゃねぇか!
柊に話を聞いてもらってたしかに救われたところはある。だが、やっぱり柊は読めない男で、俺を揶揄うのが楽しいだけだろ。
そういうところは今もこれからも嫌いだ!