「藤村の彼女に呼び出された時さ、雰囲気的に告られるかもなって思ったんだ。でも俺は行った。藤村の彼女とふたりで話をした。既成事実なんて、それだけで十分だったんだよ」

一通り話し終えて、俺はどこか体が軽かった。当時は誰にも話を聞いてもらえなかったことが悔しかったし傷ついたけど、今言葉にしてみれば大したことでもないように思えたのだ。

俺、誰かに聞いてもらいたかったんだな。今更ながらそんなことに気づく。

こればっかりは、柊に感謝してやらなければならない。サンキューって軽く言って、この話は終わりだ。
柊の方を仰ぎみると、彼は強い瞳をこちらに向けている。

「…何それ。遥風何も悪くないじゃん」

終始黙って話を聞いてくれていた柊が、低い声で静かに言った。
見たことがない柊の様子に一瞬戸惑う。怒ってるのか…?

「…まぁ、でも、俺も調子乗ってたんだよ。やっぱ、モテるのって嬉しかったし?」
「だとしても! 悪いのは、遥風がそんなことする人じゃないって分からなかった藤村ってやつやほかの友達と、あることないこと噂流した女子だろ!?噂を信じたやつも同罪」
「柊、分かったから落ち着けって。 俺、今話したのでだいぶ楽になったっていうか、もうあんまり怒りとか?ないなって。終わったことだし…」

「俺は俺の大事な遥風を傷つけたやつを許さないから」

柊…なんでおまえがそんなに怒ってんの。しかも大事ってなんだよ。
いろいろ訳分からなくて、笑えてくるわ。
一度吹き出したら止まらなくて、俺は腹を抱えて笑った。
すごい剣幕で怒っていた柊が、さらにムッとして俺を睨む。

「なんで笑ってんの。 遥風はやっぱり優しすぎるよ。言い返したり怒ったり殴ったり、すればよかったのに」
「いや、殴ったら俺の方が悪くなるだろ」
「正当防衛! 心に傷をつけるのも立派な暴力なんだからね!?」

なんか俺が怒られてるみたいじゃないか。そんな変な構図すら、おかしくて面白い。

「でも、俺が殴って暴力沙汰起こしてたら、県外とは言え今の学校には入れなかっただろうな」
「…それは困る。遥風と出会えないのは無理」
「ぷっ。 なんだそれ」

俺がまた笑い出すと、柊はようやく落ち着いてきたのかふぅと息をつく。

「…ありがとな。 なんかスッキリしたわ。話聞いて、柊が怒ってくれたから」