「ふざけんな。男のおまえと手繋いだって楽しくねーよ。 …てか、手冷たすぎ。あんなとこで待ってたりするからだろ、このバカ」
「えー、もう。釣れないなぁ」

釣れるわけないだろ。いや、釣れてたまるか。
…右手に残った柊の手の感触が消えない。華奢なのに、男らしくもあった俺より少し小さい手。……だから、それがなんだよ。何も無いだろ?

俺は自分でもよく分からない妙な感覚を忘れるためにわざとらしく息を吐き出した。

「はぁ。…コンビニ」
「ん? そっか、遥風、お腹空いてるよね」

腹は減ってるけど。そうじゃない。おまえの手が馬鹿みたいに冷たいからだ。
口に出したら多分怒ったような口調になるから、心の中だけでそう言って、俺は黙って帰路にあるコンビニまで足早に向かう。

適当に柚子の効いた暖かい飲み物を買って柊に押し付けた。変な気分になったのは腹が減っていたからだ。空腹の時って誰しも気が立っているもんだろ。そう納得して俺は肉まんの包み紙を雑に破り頬張る。
柊はぽかんとして、おずおずと聞いてくる。

「…いいの? 手が冷たいのなんて、俺が勝手に待ってただけなのに」
「俺のせいでまた風邪引かれたら後味悪いと思っただけだ」

俺はまた無愛想に答えた。柊はそんな俺を静かに笑う。

「ありがとう。 やっぱり遥風、優しいよ」

優しい。柊は前にもそう言った。…こういう時に思い出す。前の俺はどちらかと言うと友達が多い方で、こうして放課後買い食いしたり遊んだりは日常だった。俺は歩きながら、胸に黒いものが燻るのを感じていた。

「…んなことねーよ。俺は…そんなに良い人間じゃない」
「遥風…?」

俺が転校した理由。いちばんは親の転勤だけど、正直俺にとってはラッキーだった。あのままあの学校で卒業まで過ごすには、居心地が悪すぎたから。俺は逃げ出したかったのだ。