部活が終わって浅井たちと外に出て、見覚えのある背中に気づいて俺は驚いた。体育館の電源が漏れ出ているだけで辺りは暗い。まさか人がいるとは思わないだろう。

「…柊? おまえ、なんでこんなとこに…」
「遥風! と、浅井も! おつかれ〜」

浅井は軽い調子で返している。

「おつー。 雨谷のこと待ってたのか? おまえら家の方向一緒なんだっけ」
「そうそう。 遥風と帰りたくて〜」
「マジで何やってんだよおまえ…」

俺は眉間に皺を寄せた。普通に帰っとけよ。寒いし、俺のせいで風邪とか引かれたら…面倒じゃねーか。

「最近寒いけど、アツいね〜! ちゃんと彼女のこと送ってやれよ、雨谷!」

浅井は満面の笑みでそう言いながら帰っていった。誰がこいつの彼氏かよ。冗談じゃない。こんな何考えてるか分かんないふざけたやつはお断りだ。

「俺たちも帰ろ、遥風!」

嬉々として柊が言うので、俺は頭を抱えそうになる。さらに仕方なく歩き出したところで柊が言うのだ。

「でもさー、どっちかと言うと遥風が彼女だよねー」
「はぁ?」

でも、の意味が分からない。不信感たっぷりの目線を向けると、柊は口の端を引き上げて悪い顔をする。

「手とか繋いでみる?」

言うなり、柊は俺の手首をがしりと掴んだ。骨ばった細い指が俺の手を絡めとるように重なる。恋人繋ぎの形をとった柊は俺の手のひらごと少し上に持ち上げ、まじまじと眺めている。それから、びっくりして一瞬動きを止めた俺を見てくすくすと笑いながら言った。

「遥風、手大きいね。背は俺の方が高いのになぁ」

柊の手のひらから伝わる冷たい温度に我に返った俺は、慌てて、でもそれを悟られないようすっと手を離す。