突然やってきた転校生を放っておけるほど、人間というのは単純淡白にはいられないのが現実である。

「なぁ、雨谷って静岡から来たのか?」

なんで知ってるんだ。漏らしたのは担任か。別にいいけど。

「そうだよ」

会話の広がらない俺の返しにしんと空気が止まる前に他の誰かの声が重なる。

「雨谷くん、明日から授業始まるけど、私校舎案内するよ! まだ教室、覚えてないよね?」

そんなもの夏休みの間に覚えた。転入手続きとかで何度か来たし。
…とは言わない方がいいだろう。

「大丈夫だよ。 移動教室くらいひとりで行けるから」

初対面からやたら近い距離で話しかけてきた女子は、ろくに表情も変えず淡々と返した俺に明らかに落胆した顔をした。

他のクラスメイトも、この数分で俺が愛想のないつまらないやつだと認識しただろう。それでいい。
特別な友達とかそういうのを作る気はない。男女の友情なんて以ての外。話しかけにくい、近づきがたいやつ。それぐらいでいいのだ。仲良くなったって、どうせすぐ壊れる。一年一緒に居た人間も、あっけなく離れていく。

だったら最初から1人でいい。

ここではもう失敗しない。俺は学んだ。前の学校で、高校生という一瞬の青春をいかに平和に過ごすかの教訓は得た。


一限は始業式、二限はHRだ。担任が諸連絡を長々と話すこの時間ほど退屈なものはない。
席が窓際の一番後ろに用意されていたことは幸いかもな。グラウンドを見下ろせるので、体育が始まれば暇つぶしになりそうだ。

窓の外で風に揺れる木々をぼんやりと眺めていた時。

ガララと雑に教室の後戸が開く音に、反射的にそちらを向いた。