翌週には修学旅行実行委員の活動が始まった。初日は委員会のメンバーでの顔合わせと修学旅行当日までの大まかな仕事の説明を受ける。
実行委員になって良かったと思ったことがひとつだけある。学年一の美女、駒木さんがいたのだ。しかもなんと、駒木さんのいる特進クラスは10人もいないため、いちばん人数の少ないうちのクラスと合同で事を進めることになったのだ。
「よろしくね、雨谷くん」
明るく俺に笑いかける駒木さん。間近で見てもやっぱり可愛かった。柊なんかより可愛いに決まっている。
俺はそんな邪な感情を悟られないよう、真面目な顔をして普通の挨拶を返した。みんなのマドンナを独り占めなんてする気は無い。そんなことをしようものなら間違いなく俺のセカンド高校ライフは終わりを迎えるだろう。
「今日はこれで解散だよね。 雨谷くんももう帰る?」
「いや、俺はこれから部活なんだ」
「そっか〜。頑張ってね!」
「うん。ありがとう」
世間話をしながらなんとなく一緒に歩く。
今まで女子とどうやって会話していたか思い出せない。転校してきてからはクラスではあまり話さないようにしているんだった。でも、委員会で関わるなら駒木さんを避けるわけにはいかないよなぁ。
考えているうちに昇降口まで来て駒木さんとは別れてしまった。
「遥風!」
背中から声をかけてきたのは柊だ。
「柊。今帰りか?」
「そうだよ。 遥風は委員会あったんだよね。で、今から部活?」
「ああ。 …寝てたのか?」
「ちょっと休憩してただけ〜」
へらりと笑って柊は靴を履き替える。ぱっと顔を上げたかと思うと、今度はにやりと笑って言った。
「なに、心配してくれてるの?」
……余計なこと聞くんじゃなかった!
「してない。 もう行く」
「あ〜、ごめんってばー! 遥風怒んないで」
「怒ってない。早く帰れ」
柊はまだわーわー言っていたけど、俺は無視して部活に向かった。