なんだこれ。心臓がきゅってなる。動悸がする。柊の風邪がうつったか…?

「遥風?どうしたの?」
「…なんでもねーよ。ていうか寝ろよ。熱まだあんだろ」
「んー。だってせっかく遥風来てくれてるしー。それに、遥風が来たら治った気がするんだよね」
「んなわけあるかよ、バーカ。俺帰るし」
「あ、ほら口が悪い!」

リュックを肩にひっかけて立ち上がると、俺より少しだけ背の高い柊がびしっと人差し指を突き立てる。そのまま俺の眉間に当てて、ふわりと笑った。

「実行委員のことで困ったらなんでも言って。 クラスの意見が必要な時とかあるでしょ? そういうの集めるの、遥風面倒くさがりそうだし。いつでも頼ってくれていいからな!」

頼りにって…そんな頼りなさそうなやつが言うか?…パジャマだし…寝癖ひでーし。せめておでこの乾ききったシート外してから言えよ。

柊のアンバランスさがおかしくて、俺は気づけば吹き出していた。

「ふっ、おまえ、その格好で…ほんとバカ。……頼りにしてるから、さっさと治せよ」

あーもう。こいつといると、調子が狂う。ここでは新しい人間関係なん作らないって決めてたのに。柊はいつの間にか懐に潜り込んできて、俺の閉ざした硬い部分を解されそうになる。

柊は何やらじっと俺の顔を見つめている。珍しいものでも見るように。俺は柊に笑わされたことを思い出して表情筋を引き締め「…なんだよ」とぶっきらぼうに言う。

「…遥風が、デレた」
「なっ、そんなんじゃねえよ!」

こいつといると調子が狂う。
こんな風に笑ったのは、久しぶりな気がした。