結局、柊は放課後になって教室に戻ってきた。

あれからずっと寝てたのか?熱はどうなった。…寝癖はついてない。治してきた?保健室で寝ていたのがバレないように?
…だから、どうでもいいだろ、そんなこと。目で追うな。考えるな。恋する乙女か、俺は。

「遥風」

ふわりと鼻をくすぐる植物系の柔軟剤の香りと共に名前を呼ばれ、びくりと肩が跳ねた。
俺の席の前に立っているのは柊だ。

「…なに」

柊の表情は読めない。強ばっているようにも見えるが、いつもの余裕な一軍男子の感じもある。何を考えているんだ?

「話がある。ちょっと付き合って」
「は?」

なんだよ、それ。呼び出しとか怖いんだけど。ていうか、俺に予定があるとかは考えないのか?相変わらずマイペースで、それにこいつには逆らっちゃいけない、逆らえない雰囲気がある。こういうところはちょっと苦手だ。恐怖とかとは違って、人を惹きつける何か…声のトーンとか話し方とか態度とか、そういうの。上手く言えないんだけど。

とにかく俺は断れず、流されるまま柊に着いていくことになった。