高槻駅の改札を出て、最初の本屋で藤阪はあっさり見つかった。
 ちょうど、人のいない通路で品出しをしているところで、手際よく並び順を変えては、新しい本を丁寧に差し込んでいた。
 改めて見ると、日焼けした肌に短い髪で、遠目には男子と間違えそうだ。
 どう説明すべきか、悩みながら近づくと、声をかける前に相手が気づき、顔を上げた。
 目が合うのと同時に、相手の眉間にシワが寄り、作業の手が止まった。
「ごめん。あーしは犯罪者じゃないんだ……。えっと、何て言うか……」
 何も問われていないのに、思わず言い訳が口をついた。
「あの。何のご用なんですか?」
 声調には不審感がいっぱいだ。
 学生証を見せるためにリュックに手を入れたとき、名刺を作っておけば良かったと後悔した。
 なるほど、大人たちが、喜び勇んで名刺交換する理由は、自分は無所属ではないのだと、示したいからか。
「あーしは江坂っていうんだけど。桜桃女子大学の学生でさ」
 彼女は学生証をじっと見て、顔を上げた。
「それは前にも聞きましたけど――。それで何ですか?」
 気のせいか、それまでよりは、態度が軟化したようだ。
「バイト先の仕事で、これから流行りそうなスポーツを探しているんだよ。で、あーしの後輩の、そっちは島本町の高校なんだけど、そのツテで、一週間ほど前に、おたくの学校の見学をさせてもらった。やる気のなさそうな生徒会長の、清水って男子にも同行してもらったんだけど」
 一息にそう言うと、明らかに相手の緊張が弛緩した。
「はあ、なるほど。確かに生徒会長はやる気なさそうです」
 そう言って、会ってから初めて口元を緩めた。
「それで藤阪さんが自転車部だったと思うんだけど、少し話を聞かせもらえればと思って、今こうして声をかけている次第なんだ」
「何で自分なんか、ようわかりませんけど――。とりあえずバイトが九時までなんです。どうしましょう」
「だったら、明日以降で都合の良い日とか、教えてもらえる?場所はどこでもいいし」
「そうですか――。ほな週末はどうです?シフトが入ってない時間があります。場所は――大学にカフェテリアとかあります?自分、一回女子大って行ってみたかったんです」
「それはもちろん歓迎するよ。ついでに入試案内でも持って返って」
 何の他意もなくそう返事をしたが、相手は唇をきゅっと結び、「そうですね」と、気のせいでなければ、声を落としたように感じた。