その日の夜、父がいつものように、遅くに帰宅した。
 声の高さで飲んだ量がわかる。週末だが、いつもよりは少な目のようだ。
 五十を過ぎ、大手ゼネコン勤務で部長の肩書き。若い頃から仕事の半分は接待だったと豪語している人種だ。ただ、人生の先輩であることは確か。綺里の目線では見えない何かがあるかもしれない。
 居間に行くと、野球の録画を見ているところだった。
 この先、流行りそうなスポーツについて尋ねてみた。
「野球じゃダメなのか?」
「真面目に答えて。これからどころか円熟してるでしょ。その試合の結果、教えるよ」
「それだけは許してくれ。だったらゴルフだ。今、若い人にも人気らしいし」
「もしかして、次は競馬っていうつもり?」
「おお、よくわかったな。さすが我が娘だ」
 多少は期待していた分、軽く落胆した。
 スポーツ専用チャンネルを契約し、休みの日は何かしらの競技を見ているはずなのに。
 酔って、真剣に取り合っていなかったのも理由だろうが、現実問題として、すぐに思いつかなかった、というのが本音かもしれない。
 シャワーを浴び、ベッドに横になっても、与えられた仕事のことが頭から離れる気配がない。今後の方針がまるで見通せず、そのことがあせりとなっているようだ。
 起き上がって机に向かい、PCで衛星放送のサイトを開いてみた。すでに放映されている番組内容から、逆算的に種目を一覧できるのではと思ったのだ。
 カテゴリーをスポーツで絞り込んだ結果、向こう一ヶ月の間に放送される数が、およそ八千件あった。
「とりあえず、野球とサッカーとゴルフは除外だ。あと、公営スポーツはギャンブルだし、相撲と格闘技も興味ないから――」
 どうにか三桁にまでそぎ落とし、そこからさらに大分類で区分けして、最終的には三十弱の種類に絞った。
 紙に印刷した結果を見ながら、気が重くなる。
 ここから一つを選び、さらには、そこそこ有力な選手を見つけ出さなければならないだなんて。
 その過程を想像しようとして、次にすべき行動が、すでに思いつかない。
 会議での発言を後悔しそうになり、あの男連中の腹立たしい態度を思い返し、この道しかなかったのだと、自身を納得させる。そんなことを繰り返しているうちに、いつの間にか眠ってしまった。
 その週末は、何かをしなくてはという焦燥感から、娘と会話できることを喜ぶ父の横で、ひたすらにCS観戦をして過ごすだけで終わった。