次の日。
二人との挨拶で緊張した。
十島はともかく、落居は、圭太の発言を不快に感じた可能性は十分にある。
席に着いて間もなく、彼は前日と同じように、「よお」と肩を軽く叩いたが、立ち止まることなく、通りすぎて行った。
昼休みも別行動だ。
「あいつ、演劇部に入ったんだって。しばらく、そっちに行くって言ってた」
十島にだけ事情を説明していたことが、余計に気にかかる。
これが話したことのない相手だったなら、挨拶されたことは、喜ぶべき事態だというのに。人は、高いときの状況を物差しにしてしまう生き物らしい。
心に霞がかかったまま、その日の午後、ロングホームルームの時間になる。
司会として、クラス委員の彼が教壇に上がった。
「今日は体育祭と文化祭の実行委員を決めたいと思います」
体育祭は五月に、文化祭は九月にあるらしいが、どちらも圭太にはまるで興味がない。この手の催事は、必要以上に一体感を求められるが、それができない人間にとって、苦痛でしかないのだ。
体育祭の実行委員、立候補はなかったが、他薦で野球部の男子に決まった。
続いて、文化祭の実行委員。
やはり成り手はおらず。今度は明確な基準もないせいか、他薦も出てこない。
誰もが誰かに期待して、息苦しい空気が教室中に広がっていたときだ。
落居と目が合った。
「じゃあ長坂でいい?」
まさかと思う間もなかった。
いつも冷静でいることが当たり前で、意識してそうできるという自信があった。だが、周囲の視線に頭が真っ白になり、反して顔が紅潮する。
猛回転を始めた頭が、最初に解くべき課題として認識したのは、指名の理由だった。
単純に考えれば、あの説教の仕返しだろう。
だが、その判断は、彼の、どこか不安そうな目を見て、即座に却下される。
圭太のうぬぼれでなければ、おそらくはその逆。この事務的なやり取りをきっかけに、今まで通りに話したいと、そんな動機なのではないだろうか。
ひとまずの結論を導いたとき、すでにかなりの時間が経過していた。
返事をしなかったせいだろう、見える範囲の生徒の顔がすべて、圭太に向いていた。
周りの空気が一挙に希薄になる。
時間をかけるだけ注目度が高まる仕組みである以上、もはや引き受ける以外の選択肢はなくなった。
文化祭の実行委員――。
考えただけで気が滅入る。
演劇も模擬店も、バンドのパフォーマンスも。全部素人のままごとだ。金を取る価値なんて皆無。
それなのに、人間関係に不備のある生徒が、こうやってあぶり出されてしまう、本当に無価値で無慈悲な行事。
落居を恨みそうになり、その発端になった、自身の発言を呪っていたときだ。
予想外のことが起きた。
「あー、やっぱりあたし、やろっかな」
遠くで誰かがそう言った。
「部活やってないし、暇だったんだ」
聞き覚えのあるその声は、言葉の内容とは裏腹に、まるで前向きには聞こえなかった。
全員の視線が圭太から離れたのがわかり、思わず深く息をはいた。
「なんだよ、じゃあさっさと言えよ」
「何よ、その態度。せっかく立候補してあげたのに」
なぜか不服そうな落居と、同じく不満げな十島。教室内に、理由のわからない険悪な雰囲気を残して、議題は次へと移った。
二人との挨拶で緊張した。
十島はともかく、落居は、圭太の発言を不快に感じた可能性は十分にある。
席に着いて間もなく、彼は前日と同じように、「よお」と肩を軽く叩いたが、立ち止まることなく、通りすぎて行った。
昼休みも別行動だ。
「あいつ、演劇部に入ったんだって。しばらく、そっちに行くって言ってた」
十島にだけ事情を説明していたことが、余計に気にかかる。
これが話したことのない相手だったなら、挨拶されたことは、喜ぶべき事態だというのに。人は、高いときの状況を物差しにしてしまう生き物らしい。
心に霞がかかったまま、その日の午後、ロングホームルームの時間になる。
司会として、クラス委員の彼が教壇に上がった。
「今日は体育祭と文化祭の実行委員を決めたいと思います」
体育祭は五月に、文化祭は九月にあるらしいが、どちらも圭太にはまるで興味がない。この手の催事は、必要以上に一体感を求められるが、それができない人間にとって、苦痛でしかないのだ。
体育祭の実行委員、立候補はなかったが、他薦で野球部の男子に決まった。
続いて、文化祭の実行委員。
やはり成り手はおらず。今度は明確な基準もないせいか、他薦も出てこない。
誰もが誰かに期待して、息苦しい空気が教室中に広がっていたときだ。
落居と目が合った。
「じゃあ長坂でいい?」
まさかと思う間もなかった。
いつも冷静でいることが当たり前で、意識してそうできるという自信があった。だが、周囲の視線に頭が真っ白になり、反して顔が紅潮する。
猛回転を始めた頭が、最初に解くべき課題として認識したのは、指名の理由だった。
単純に考えれば、あの説教の仕返しだろう。
だが、その判断は、彼の、どこか不安そうな目を見て、即座に却下される。
圭太のうぬぼれでなければ、おそらくはその逆。この事務的なやり取りをきっかけに、今まで通りに話したいと、そんな動機なのではないだろうか。
ひとまずの結論を導いたとき、すでにかなりの時間が経過していた。
返事をしなかったせいだろう、見える範囲の生徒の顔がすべて、圭太に向いていた。
周りの空気が一挙に希薄になる。
時間をかけるだけ注目度が高まる仕組みである以上、もはや引き受ける以外の選択肢はなくなった。
文化祭の実行委員――。
考えただけで気が滅入る。
演劇も模擬店も、バンドのパフォーマンスも。全部素人のままごとだ。金を取る価値なんて皆無。
それなのに、人間関係に不備のある生徒が、こうやってあぶり出されてしまう、本当に無価値で無慈悲な行事。
落居を恨みそうになり、その発端になった、自身の発言を呪っていたときだ。
予想外のことが起きた。
「あー、やっぱりあたし、やろっかな」
遠くで誰かがそう言った。
「部活やってないし、暇だったんだ」
聞き覚えのあるその声は、言葉の内容とは裏腹に、まるで前向きには聞こえなかった。
全員の視線が圭太から離れたのがわかり、思わず深く息をはいた。
「なんだよ、じゃあさっさと言えよ」
「何よ、その態度。せっかく立候補してあげたのに」
なぜか不服そうな落居と、同じく不満げな十島。教室内に、理由のわからない険悪な雰囲気を残して、議題は次へと移った。