それから年末までは慌ただしい日々だった。
 落居の家業の法人化には、弁護士の梁川が尽力してくれた。
 一つだけ気がかりだったのは、クラスメートでもある彼本人との関係だったが、それは杞憂に終わった。
 圭太のことをオーナーと呼ぶことに何のためらいも見せず、さらに言えばその立ち位置を喜んでいるようにさえ見えたからだ。
「家を継ぐか悩んでたけど、おかげですっきりしたよ。大学は建築学科のあるところ選ぶからさ」
 反して、十島の機嫌がずっと悪い。
「OMのことはもう十分じゃない。あとは無視してようよ」
「さすがにそうもいかないだろ。出資者の側として、経営が順調に回り出すまでは――」
「その通り。俺は一生かけて恩を返さないといけない立場なんだ。お前とは、圧倒的に身分が違う」
 落居をにらむ彼女の唇から、ついに血が流れた。
 彼女が、圭太といとこ同士であることを宣言したのは、その直後のことだ。
 それ以来、二人はそれまで以上に張り合うようになり、教師が不思議がるほど、どちらの成績も上昇した。
 芦川とはようやく疎遠になると思っていたが、そちらも想定通りに事が運ぶ気配がない。
「リフォームのお仕事がある程度軌道に乗ったら、うちのお母さんの家を直してもらえる?」
 実家を事例としてホームページに掲載してはどうか、というアイデアを出してきたのだ。広告塔として自身の価値を熟知しての発言だった。
 落居の家に出資したあと、わずかに残った預金を再び投資に回したが、まるで神通力がなくなったかのように思い通りに利益が上がらない。
 そうしたくはなかったが、今は芸能人を頼りにせざるを得ない状況だった。