一週間後、落居から父親が退院したと告げられた。
　全身の打撲と右腕及び左足首の骨折で済んだのは奇跡だと、医者から繰り返して言われたらしい。
　クラスにも事故のことは知れ渡っていたが、リフォームの作業中に足場から落ちたと、担任からは伝えられていた。
「お父さん、退院したんでしょ？クラス委員なんだから、あんまり学校休むの、どうかと思うけど」
　あの日以降、落居の笑顔はすべてが作られたものだ。油断すれば心痛がすぐに表情に出るほど苦悩していることは、圭太も十島も十分に理解している。
　彼女がいつも通りに冷たく接するのは、きっと彼に日常を取り戻してほしいからだと思う。
「うるさいな。色々あるんだよ」
「それは……わかるけど。あたしたちに手伝えること、何かないかなって意味で聞いたの」
「ありがたいけど、何もない」
　怪我は治っても、彼の父の環境は何一つ変わっていない。
　また同じようなことが起きないよう、家族がずっとそばについていなければならないと、十島が席を外したあと涙声で告白した。
　どうしてこんな状況に巻き込まれているのか。持ち株を売り払ったところを、誰かに見られていたのだろうか。
　その日の夜、芦川からメッセージが入った。
「ラクちゃんのお父さん、退院したんだってね。千ちゃんから聞いたわ」
「でもまた同じようなことにならないよう、周りが大変みたいなんだ」
「そのことだけど、テレビ局の報道の人に相談してみたの。何もできないと思うけど、話を聞くくらいならって。どう思う？」
　その文面だけでは計りかねたが、おそらくは、芦川があの性格で強引に持ちかけたに違いない。
「無理だって弁護士が言ってたらしいし、無駄なことはしなくていいんじゃないか」
　送信と同時に電話が着信した。
「何だよ」
「あなたさ、無駄って何よ。友達の一大事なんじゃないの？少しでもできることをしたいってそう思わないわけ？人情ってものが欠落してるの？」
「落居のことはほとんど知らないだろ。君のほうこそお節介なんじゃないのか」
「わたしは子供の頃からお母さんに苦労かけてるから、親はもちろん、他人の好意というものを理解してるし、大切にしてるのよ。簡単に今の地位に立っていると思ったら大間違いなんだから」
　彼女と話すと、正気でいられなくなることが多い。
「何で黙ってるの？いつもみたいに口を尖らせてるの？」
「いつ、尖らせたんだよ」
「ほら、今よ」
　頭に血が上り、意味なく暴言を吐きそうになったとき、視界にアビーが入った。廊下に出ようとしたのでそっと扉を引く。
「この際だからはっきり確認したいんだけどさ、ケンカを売るために電話してきてるのか？」
「それこそ無駄でしょ。本気で聞いてるなら馬鹿じゃないの？」
　よくもまあ、流れるように悪口が出てくるものだ。
「とにかく明日、大月まで迎えに来て。着く前にまた連絡するから」
　それだけ言うと、唐突に通話が切れた。
　横柄が服を着たらああなるんだろう。何気なくそんなことが頭に浮かんだが、実際にその場面を想像するとおかしくなり、少しだけ気分が晴れた。