塩崎が再び来訪したのは、それからわずか三十分ほどした頃だ。
 ジョーイを放置して、タクシーを飛ばしてきたらしい。
「三つともいただけるなんて、本当にうれしいです。代金ですけど、これでいかがですか?相場よりは高いと思います」
 そう言うと、封筒を差し出した。
 詩乃は圭太を一瞥してから、それを受け取り、目を見開いた。
「こんなに……。これ、全部一万円札ですか?」
「一応二百万円です」
「ええっ」
 震える詩乃を横目に、塩崎は少女のような笑顔で、レンズを一つずつ慎重にタオルでくるんで鞄に入れた。
 彼女が部屋を出ようと立つのを見て、慌てたように咳払いをした芦川と視線が交差する。
「塩崎さん、メッセージにも書いたんですけど、レンズをお譲りするのにあたって――」
「凛音ちゃんを撮るってこと?そうね、わたしで良ければ、だけど」
「本当ですか?すごくうれしいですっ。では正式に事務所から依頼させていただきますので」
 芦川を駅まで送り、戻ったあともまだ、詩乃は不安そうに封筒を握りしめていた。
「こんなにたくさん。どうしましょう……。そうだ、半分は圭太さんに、ね。もらってくれる?」
「叔母さんはそんなに余裕があるわけでもないんでしょう?全部使って下さい」
「ダメよ。だって、こうなったのも圭太さんの交友関係のおかげじゃない」
「僕というより、おじいちゃんに見る目があったんですよ」
 それでも彼女は封筒から出した帯の一つを圭太に渡そうと抵抗した。
「それなら、一つ提案があるんですけど。この部屋、キッチンとつなげませんか?」
 この家に来てから、ずっと気にかかっていた。ダイニングと行き来するのに、わざわざ廊下を経由するのが不便なのだ。壁をなくせばLDKとして広く使えるのではないか、と。
「確かにそうかも――。そんな発想、私にはなかったわ。でも、できるのかしら」
 リフォームについて、相談できる人間には、当てがあった。