週明け、生まれて初めて写真集なる物を購入した。塩崎に興味があったわけではない。広い意味での市場調査であり、圭太自身の知見の更新のためだ。
略歴によれば、若い頃は仕事がなく、一ヶ月の売り上げが百円だったこともあったようだ。転機が訪れたのは四年前。屋久島で撮影した一枚の写真が、風景写真で世界的に権威のある、ナショナルジオグラフィックのコンテストの優秀作として選ばれた。それ以来、舞台を海外に移し、人跡が未踏の場所を選んで活動を続けていると言う。
写真の良し悪しはまるでわからなかったが、彼女が今の立場になるのに、相応の苦労があったことは理解した。
詩乃の夕食の声に、階下に下りる。
「さっきのは何の荷物だったの?」
「えーと、参考書です。それよりこれ、作ってみたんですけど、いかがですか?」
手にしていた三枚のA4の用紙を手渡した。
「これって……。もしかして私のため?」
彼女は、大げさに驚いて見せた。
「エクセルで作りました。日数とか回数を入れると最後の合計金額も自動で変化します。プリンターがないので、印刷は学校でしかできないですけど」
「すごいわ。請求書だけじゃなくて見積書と納品書もなんて。こんなこと、圭太さんできたのね。立派ねえ」
「いえ、大したことないです。バイト代くらいは働こうかと」
売り上げの一割をもらう約束だが、前回の手取りは二千円に届かなかった。割りには合わないが、恥ずかしい思いをするよりはましだろうという判断だ。
彼女はうれしそうに携帯を取り出すと、画面を圭太に向けた。
「また依頼があったの。早速、使わせてもらうわね」
今回の相手は日本人らしく、翻訳と同行は不要だという。
文面を流し読みして、何かの違和感を覚える。
「ちょっと見せてもらっていいですか」
処置費を前金で振り込んだ、とある。その額五万円。ホテルも予約済みだと言う。
「ホテルウエスタンなんて夢みたい。一度泊まってみたかったの。きっといい人なんだわ」
メールの結びにこうあった。
「最後に、当方の猫の情報を付加しておきます。品種はアビシニアン、二歳のメスです。獣医によれば、ストレス性の胃腸炎とのこと。ご都合の良いときで結構ですので、何卒よろしくお願いします」
「二歳で病気になることなんてあるんですか?」
携帯を返しながら尋ねると、彼女から笑顔が消える。
「まあ、そうね。売られている猫ちゃんだと、そういうこともあるのかも」
「売られて……?どうしてわかるんです、そんなこと」
「血統が書いてあるからそうかなって。もちろんそうじゃないかもしれないけれど」
理由は不明だが、そのとき、小さな胸騒ぎがした。
略歴によれば、若い頃は仕事がなく、一ヶ月の売り上げが百円だったこともあったようだ。転機が訪れたのは四年前。屋久島で撮影した一枚の写真が、風景写真で世界的に権威のある、ナショナルジオグラフィックのコンテストの優秀作として選ばれた。それ以来、舞台を海外に移し、人跡が未踏の場所を選んで活動を続けていると言う。
写真の良し悪しはまるでわからなかったが、彼女が今の立場になるのに、相応の苦労があったことは理解した。
詩乃の夕食の声に、階下に下りる。
「さっきのは何の荷物だったの?」
「えーと、参考書です。それよりこれ、作ってみたんですけど、いかがですか?」
手にしていた三枚のA4の用紙を手渡した。
「これって……。もしかして私のため?」
彼女は、大げさに驚いて見せた。
「エクセルで作りました。日数とか回数を入れると最後の合計金額も自動で変化します。プリンターがないので、印刷は学校でしかできないですけど」
「すごいわ。請求書だけじゃなくて見積書と納品書もなんて。こんなこと、圭太さんできたのね。立派ねえ」
「いえ、大したことないです。バイト代くらいは働こうかと」
売り上げの一割をもらう約束だが、前回の手取りは二千円に届かなかった。割りには合わないが、恥ずかしい思いをするよりはましだろうという判断だ。
彼女はうれしそうに携帯を取り出すと、画面を圭太に向けた。
「また依頼があったの。早速、使わせてもらうわね」
今回の相手は日本人らしく、翻訳と同行は不要だという。
文面を流し読みして、何かの違和感を覚える。
「ちょっと見せてもらっていいですか」
処置費を前金で振り込んだ、とある。その額五万円。ホテルも予約済みだと言う。
「ホテルウエスタンなんて夢みたい。一度泊まってみたかったの。きっといい人なんだわ」
メールの結びにこうあった。
「最後に、当方の猫の情報を付加しておきます。品種はアビシニアン、二歳のメスです。獣医によれば、ストレス性の胃腸炎とのこと。ご都合の良いときで結構ですので、何卒よろしくお願いします」
「二歳で病気になることなんてあるんですか?」
携帯を返しながら尋ねると、彼女から笑顔が消える。
「まあ、そうね。売られている猫ちゃんだと、そういうこともあるのかも」
「売られて……?どうしてわかるんです、そんなこと」
「血統が書いてあるからそうかなって。もちろんそうじゃないかもしれないけれど」
理由は不明だが、そのとき、小さな胸騒ぎがした。